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ITトレンド・セレクト
2013年06月06日(木) 小林 雅一

D-Waveの量子コンピュータは本物か? ---その基礎理論を考案した日本人科学者に聞く

日本の科学者が基礎理論を考案

 これもあまり知られていないことだが、このD-Waveが採用した「量子アニーリング」方式は、実は日本人が考案したものだ。それは1998年に、東京工業大学・教授の西森秀稔氏と、当時、同氏が指導した大学院生の門脇正史氏の二人が共同で提案した理論である。

 D-Waveの"量子コンピュータ"が「本物の量子コンピュータではない」と批判される背景には、ここまで述べたような感情的、政治的な事情があるのはもちろんだが、純粋に科学的に見ても、まだ疑問の余地が残されている。

 もちろん「量子アニーリング」という理論自体は、量子コンピュータの基本原理の一つとして認められている。しかし、実際に製品を作るとなると、そこには当然、技術的なハードルが幾つもあるわけで、容易に成し遂げられことではない。ベンチャー企業のD-Waveが作った量子コンピュータが疑問視されるのも、ある程度はやむを得ない。

 今回、西森教授に1時間ほどインタビューする機会を得たので、その辺りを同氏がどう見ているかを聞いてみた。以下はその一問一答である。

西森秀稔・東京工業大学教授へのインタビュー

---「量子ゲート」と「量子アニーリング」の違いは何か?

西森秀稔・東京工業大学教授

 ゲート・モデル(量子ゲート)は、途中の状態がとても不安定だ。それは「デコヒーレンスの問題」と呼ばれ、せっかく作った状態がすぐに壊れてしまう。それを制御するのは技術的に非常に難しいので、数qubit以上の量子コンピュータはなかなか実現できない。

 これに対し、量子アニーリングは「基底状態」と呼ばれるエネルギーが最も低い状態を扱うので、とても安定している。だからこそD-Waveが「512 qubitの量子コンピュータを作った」と言っても、それだけで「嘘だ」と言うわけにはいかない。

---教授ご自身はどう見ておられるのか?

 少なくとも当初、D-Waveは宣伝が先行していたと思う。彼らに言わせると、「同じ性能の計算機でも『量子』という言葉を名前に入れると、セールス・トークとして物凄くインパクトが強い」と。彼らのようなベンチャーは投資家から調達した資金がなくなったら潰れてしまうので、「量子」を強調して(投資を呼び込んで)生き残ってきた。そこを「胡散臭い」と言う人もいる。

 私も最初はそうだった。しかし今から1年ほど前に(D-Waveが)128 qubitのマシンを作って、「それが動作する」という論文が『ネイチャー』や『サイエンス』のような一流誌に掲載された。それで風向きが変わったと思う。つまり「これは本当に(量子力学に従って)動作しているのではないか」と。それ以前、彼らはきちんと論文を出していなかった。

---数字的にはどの程度の評価か?

 個人的な評価は変わってきている。5、6年前までは9対1位で(D-Waveの"量子コンピュータ"は)「眉唾」と見ていた。今は五分五分か、ひょっとしたら、それを超えたかもしれない。ちょうど(評価がマイナスからプラスへと)クロスした辺りだ。

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