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ITトレンド・セレクト
2013年06月06日(木) 小林 雅一

D-Waveの量子コンピュータは本物か? ---その基礎理論を考案した日本人科学者に聞く

 つまり現状では、量子力学の原理が情報処理(コンピュータの計算方法)に応用できることは分かっているものの、それが実用化されるのは何十年も先になる、というコンセンサスがほぼ確立されている。

 「それは50年先」と言う人もいれば、「いやいや、それでは余りに先の話過ぎて叱られるから、せめて30年先にしておこう」と言う人もいる。米IBMの研究者は「15年先」と言っているが、それでも大分先の話であるし、恐らくハッタリや希望的観測も含まれている。

 では、そうした状況下で、一般には知られていないカナダのベンチャー企業が、「512 qubit」というような本格的な量子コンピュータを製品化し、それをグーグルやロッキード・マーチンといった大手企業が購入して、AI(人工知能)のような高度研究に利用するとしたら?

 これがまさに、D-Wave Systems社が「やった」と主張していることなのだが、これに対し、周囲がどんな反応を見せるかは、容易に想像がつく。そこでは「驚愕」というより、むしろ「疑念」や「反感」といったネガティブな反応の方が大勢を占めるはずだ。これが実際、今、起きていることなのである。

D-Waveは異端の方式を採用

 D-Waveが批判の矢面に立たされる、もう一つの理由は、同社の採用した方式が、量子コンピュータ関係者の間では一種「異端」と見られていることだ。1985年にイギリス人の物理学者、デビッド・ドイッチュ氏が最初に本格的な量子コンピュータを提唱して以来、その研究開発は概ね「量子ゲート」と呼ばれる方式に基づいて進められてきた。

 厳密な解説は筆者の手に余るが、量子ゲートとは要するに、現在広く使われている汎用デジタル・コンピュータの基本素子である論理ゲートと呼ばれるものを、量子力学の原理で再構成したものだ。現在、米国や日本をはじめ世界の量子コンピュータ開発の大多数が、この「量子ゲート」方式に基づいていると見てよい。言わば、量子コンピュータ開発の主流方式である。

 これに対しD-Waveの"量子コンピュータ"は、「量子アニーリング」と呼ばれる全く別の方式に基づいて作られている。これは一種のアナログ計算方式であり、汎用のデジタル計算方式に比べて応用範囲が狭い。そのせいか、量子アニーリングの基礎研究は為されているものの、これを使って実用的な量子コンピュータを開発しようとする試みはほとんどなかった。

 しかしD-Waveはこの異端の方式を採用し、(あるベンチマーク・テストにおいて)従来型コンピュータの3600倍もの処理速度を達成した。しかも、これを使ってグーグルが人工知能の研究開発をできるほどだという。これと「15 = 5 × 3」という段階にある他の量子コンピュータ(量子ゲート方式に従う)を比べれば、そこには眩暈がするほどの落差がある。

 このように、みんなとは違う方法で他者を出し抜いたことも、D-Waveへの風当たりが強い理由の一つと見られる。

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