「ドクターZは知っている」特別版
意見がコロコロ変わるのはなぜか
鳩山さんの思考過程を解剖する

 今さら目くじらを立てるのも大人げないと思わせるほど、鳩山由紀夫首相の発言のブレは日常茶飯だ。子ども手当を満額支給するかどうか、米軍普天間基地の移転先をどこにするのか、口を開くたびに違う話が出てくるような気さえする。

 それにしても、なぜあれほど鳩山首相の発言は、右に左に、前に後ろに、ブレまくるのか。

 もちろん資質の問題もあろう。だがここでは、鳩山首相が政界入りする前に専門にしていた研究の影響を考えてみたい。何しろ数学の話なので若干専門用語も混じるが、お付き合いいただきたい。

 まず最初に確認しておくが、鳩山首相は日本憲政史上初めての本格的な「理系宰相」である。理系総理としては田中角栄(中央工学校土木科)、鈴木善幸(水産講習所、現東京海洋大学)がいるが、いずれもどちらかと言えば実学系。

 一方、鳩山首相は東京大学工学部で計数工学を学んだ後、米国のスタンフォード大学大学院でオペレーション・リサーチ(OR、後述)理論を研究して博士号を取得している。

 この学歴は、はっきり言って、凄い。理系トップは世界では珍しくないが(サッチャー元英首相=オックスフォード大学・化学、メルケル独首相=ライプツィヒ大学・物理、ネタニヤフ・イスラエル首相=マサチューセッツ工科大学・建築学、胡錦濤・中国国家主席=清華大学・水力エンジニアリングなど)、その中でもずば抜けている。

 何しろスタンフォードは米国でも屈指の名門校で、世界の大学ランキングでもベスト5に入る。ルース駐日アメリカ大使も同校の出身だが、ルース大使は修士号止まりだから、Ph・D(ドクター)の鳩山首相とは格が違うのだ。

 実は首相の発言がブレて見えるのは、ORが主因なのである。もっとも、その理論では、鳩山首相は自分がブレているなどとは、小指の先ほども思っていない。ここが大問題なのだ。

 ORとは、第二次大戦中に、既存の兵器をうまく運用して、新技術に頼らずに敵を撃退する目的で生まれた学問。ある制約条件のもとで、最大効果を上げるための手法を導き出す実践的な問題対処学だ。要は、目的や条件を明確にし、ベストな解答を求める―これが鳩山首相が長年研究してきた理論なのである。

 つまり、こうも言える。どうすれば最良の決断ができるかを、世界最高峰の大学で、しかもその道では世界的権威とされるジェラルド・リーバーマン教授から直接教わった「決断のプロ」こそが、鳩山首相の本来の姿である、と(笑)。

頭がいいところを見せてくれ

 では、その「決断のプロ」はどう考えるか。子ども手当を例に、鳩山首相の「理屈」をORでシミュレートしてみよう。最大化したいのは、参議院選挙での勝利の確率。制約条件は、
(1)「マニフェストを守ること」
(2)「財源の範囲で支給すること」だが、実はもう一つ
(3)「小沢一郎幹事長が納得すること」という「隠れ条件」がある。

 鳩山首相は、プライドがあるから「小沢条件」の存在を認めたがらないが、実は最大の制約条件と言っていい。

 鳩山首相は当初、(1)を重視し、(3)を考慮して最適解を出していた。(2)については予算の組み替えで対処できるという前提があったからだ。小沢幹事長が追求している目的は「何が何でも参院選に勝つこと」だから、この場合の鳩山首相の最適解は満額支給である。

 だがその後、財源の手当てが難しくなる。つまり「財源論」という制約条件が浮上してくるわけだ。そうなると今度の最適解は条件付き支給となる。「子ども手当のために借金を残すようなことはしたくない。子ども手当は(予算の)無駄を削減するなか、余裕ができた分でやろうと思っている」という発言になるのである。

 すると、今度は小沢幹事長が黙っていない。「それじゃあ選挙に勝てない」という恫喝(?)が小沢幹事長から入ると、「隠れ条件」を思い出し、満額支給に戻るのだ。

 外から見れば、結論が右往左往しているのだから、ブレていると批判する。だが、鳩山首相にとっては、世間が訝ることのほうが不思議なのだ。条件が違えば最適解が異なるのは当然のことなので、ブレているなどとはまったく思わない。「それがOR的思考であり、どこが悪いんですか?」という感覚だろう。

 それにしても、鳩山首相は本当に頭脳明晰な「理系宰相」なのか、それとも数学アタマをとっくに忘れたダメ親父なのか。それを見分ける絶好の実例がある。郵政民営化の見直しだ。

 小泉政権時代、OR的な手法による詳細なシミュレーションで、民営化をしなければ十数年後に破綻するという結論が出た。

 しかもそのシミュレーションは、野党だった民主党の強固な主張によって、政府に行わせたものだ。その郵政民営化を鳩山政権は見直そうとしている。表向きは民営化のままだが、方向性は「国有化」だから、このままでは十数年後に破綻する。

 そうであれば、「鳩山政権による郵政民営化見直し」という新たな条件を考慮して、最適解がどうなるかをOR的手法でシミュレーションするべきであろう。だが政府は、自民党の塩崎恭久衆院議員が質問主意書でシミュレーションを行うかどうかを質したのに対して、それを否定した。

 鳩山首相が本当に理系思考を忘れていないなら、OR的手法によるシミュレーションを部下に命じてやらせるはずだ。もし命じないのなら、実はORのことなどすっかり忘れた、ただのブレ発言親父ということになる。

 同じ理系人間としては、後者でないことを願っている。

 スタンフォードで博士号取得。これだけの高学歴は、政界でも少ない

 基地の資料を見ながら、一生懸命考えているように見えるが・・・。

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