アベノミクス時代の企業統治のあり方とは?~日本郵政、ソニー、西武HDに見る、会社と株主のコミュニケーションと経営者の責任
文・石川和男 (政策家/社会保障経済研究所代表)

 6月、株主総会の季節になった。この時期、日本企業では株主総会をもって交代する経営者も多い。日本郵政のトップである坂篤郎社長は、昨年12月に着任したが、わずか半年で交代する。この急な人事は、同社の業績上の問題によるものではない。

 日本郵政は、2013年3月期に経営計画を上回る、民営化後最高益を記録しているのだ。にもかかわらず、なぜトップが交代しなければならないのか。それは政府の強い意向による。日本郵政の最大にして唯一の株主である政府の意向が、今回のトップ交代も含めた同社の幹部人事に色濃く反映されたわけだ。

 改めて述べるまでもなく、日本郵政はこれまでも政治の波に翻弄され続けてきた。昨年末の安倍政権発足直前に決定された坂氏の社長就任は、日本郵政主導の人事であった。昨年末の総選挙後、政権交代が確定した中で、新政権を担う自民党に何ら了承を得たものではなかったとされる。今回の坂社長の交代劇は、その報復だと見て間違いない。政権交代の強風に晒された坂社長には同情せざるを得ない面があると筆者は考える。

株主に対する姿勢の変化

 一方で、政府にしてみれば、社長人事への介入は最大株主として正当な権利を行使したものであって、何ら糾弾される性質のものでもないとの認識であろう。それは当然のことであり、頷けることだ。むしろ、政府が国民に対して負っているような説明責任を、会社側は株主に対して負っている。昨年末のトップ交代の際、経営上の重要事項として日本郵政が最大株主である政府(新政権を含む)に対して十分なコミュニケーションを取っていれば、今回のような顛末にはならなかったのではないだろうか。

 周囲を見渡してみると、株主と会社の緊張関係が高まりつつある事案が散見される。日本郵政と同じような非上場の大企業・西武HDに対して、米PEファンドのサーベラスが役員の追加選任を求めている。上場企業ソニーに対しては、米ヘッジファンドが経営改善のための提案を行っている。

 私自身は企業統治論や財務会計論の専門家ではないので、個々の企業経営について評価することは控えるが、これらの事例を通じて言えることは、企業経営者は株主に対する説明責任を負っており、株主と向かい合わざるを得ないということだ。それぞれ全く異なる事情、異なる性質の株主、異なる保有割合だが、一様に言えることは、いずれも株式会社の形態をとっており、株主との対話なくして企業は成り立たず、また、その巧拙によって対外的に見えてくる「株主に対する姿勢」の印象が大きく変わってくるということである。

 冒頭挙げた三者の比較をしてみると、以下のとおりである。

※報道によれば、西武HDは株主側から鉄道路線の一部廃止と西武球団の売却を求められたとしているが、言った言わないの真偽はともかく、株主側からは今後求めることはない旨公言されているので、上記表からは除いている。

 報道を見る限り、ソニー経営陣は10パーセントに満たない株主からの注文であっても株主との協議の場を設け、その上で、提案に対する第三者の評価も得ながら同社の取締役会で真摯に検討するとのメッセージを発信した。少なくとも報道ベースでは、株主との対話を重視しているとして、このような姿勢は歓迎されているようである。

 一方、西武HDとサーベラスの間では対話が断絶してしまっているのが目下最大の問題に思える。有価証券虚偽記載等で窮地に陥っていた状況下で出資した7年来の株主との関係が急遽悪化し、メディアで大々的に対立が報じられていることについて、率直に言って疑問に思わざるを得ない。双方言い分があると思うが、非上場だからと言って株主との対話が求められることには変わらない。そもそも、会社や経営陣側から株主の地位を変えることはできないのだから、経営側が歩み寄ることで対話の場を設けていく以外に解決の道はないのではないか。

 もちろん、株主の意見が必ずしも正しいとは限らない。だが、企業経営には多様な視点が求められる。経営陣が正しいと思うことは堂々と株主にぶつければよい。株主を納得させられないのであれば、それは何かしら見直すべきところがあるからかもしれない。

 現時点において、ソニーの取締役会はヘッジファンドからの提案を真摯に検討すると表明したばかりで、その結論はまだ見えていない。しかしながら、結論がどうなるにせよ、その結論に至る理由も含めて、当該ヘッジファンド以外の株主にとっても納得性の高い検討結果の公表が期待される。

 他方、西武HDのケースでは、感情論で官民を挙げて西武HDに肩入れをしているように思えてならない。冷静な目で見れば、西武HDが決算期末直前に業績下方修正を公表しながら決算当日に上方修正をして過去最高益を発表した点など、株主側が指摘している問題点にも素人目から見ても頷ける部分がある。サーベラスとしても、鉄道という公共性の強い事業に投資している以上、過度に資本の論理を振りかざしていると見做されぬよう、細心の注意が必要であることは言うまでもない。

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