「講座: ビジネスに役立つ世界経済」
【第6回】 ~ユーロ中心国フランスの苦悩~

〔PHOTO〕gettyimages

 このところ、ユーロ加盟国の国債利回りは低下基調で推移している。例えば、イタリアの10年物国債利回りは4.2%、スペインの10年物国債利回りは4.4%、ギリシャの10年物国債利回りでも8.8%とユーロ危機の最中とは様変わりである(ユーロ危機の局面での10年国債利回りのピークはスペイン、イタリアが7%超、ギリシャに至っては30%超に達していた)。

 ユーロ圏経済は、これまでにも増してますます低迷の度を深めているので、ユーロ圏経済低迷=債務危機という印象が強い読者の中には、不思議に感じられる方がいらっしゃるかもしれない。しかし、ユーロ圏の国債利回りが急速に低下していくのは至極当然であると考える。

 なぜならば、ユーロ圏の中央銀行であるECBは、IMFや欧州委員会と協力して、ユーロ危機にともなう国債利回りの急騰で、ユーロ圏の金融機関が経営破綻を起こすという事態を回避するために、大量の資金供給を実施しているためである。

 ECBがユーロ圏の金融機関を破綻させないという強い意志をもって金融政策運営を行う限り、金融危機が連鎖する懸念はかなり払拭されたはずである。金融危機がかなりの確率で回避できるという安心感から国債利回りは安定化へ向かっていると考えられる。

 また、金融危機が封印される一方、ECBは景気刺激的な緩和政策を採れないでいる。そのため、金融システムが安定する中、ユーロ圏経済では静かにデフレが進行しているのではないかというのが筆者の考えである。

 このように、ユーロ圏経済は一向に改善の気配がない。2013年1-3月期のユーロ圏の実質GDP成長率は季調済年率換算で-0.9%と6四半期連続のマイナス成長となった。

 スペインやイタリアといった南欧の周辺国の経済情勢が極めて悪いのは当然だが、昨年までのユーロ圏の債務危機の局面において、堅調な輸出によってユーロ圏経済を下支えし、他国には厳格な緊縮財政を強いていたドイツも景気の減速が鮮明になっている。経済が健全なドイツがユーロ圏経済を牽引しながら、南欧諸国が財政再建を進めていくというユーロ復活シナリオは既に破綻している。

ユーロ圏経済の復活を阻害する要因

 筆者は、低迷を続けるユーロ圏経済の今後を占う上で重要な国は、フランスではないかと考える。フランスはドイツと並ぶユーロ圏の「中心国」として、ユーロ圏経済の立て直しに尽力しているようにみえる(ユーロ圏の債務危機に際して資金援助を行っているIMFの専務理事のラガード女史はフランスの財務大臣であった)。だが、フランス経済の現状は、「中心国」というよりもむしろ、南欧等の「周辺国」に近く、今後はユーロ圏経済の復活を阻害する要因になりかねないと考える。

 また、前述のように、現在は収まっている債務危機が再燃するとすれば、それは、キプロスやスロベニアといった「小国」ではなく、フランスの債務危機であると考える。筆者の今後のユーロ圏経済のシナリオは、「日本化」、すなわち、信用収縮をきっかけとした長期的なデフレ局面入りと長期金利の大幅な低下というものだが、フランス経済の状況次第では、債務危機による周辺国+フランス国債の急騰とユーロ大幅安のリスクが台頭するかもしれない。

 このように、フランス経済の現状は、ドイツやオランダといった中心国よりも、イタリア、スペイン等の「周辺国」に近い(といっても、ドイツ、オランダ等の中心国の経済も低迷局面に入りつつあるが)。

 例えば、フランスの対外公的債務残高(要するに発行済の国債残高のうち、海外投資家が保有する分)は対GDPで60.9%であるが、これは、債務危機を経験したスペイン(57.4%)、イタリア(57.6%)よりも高い(ちなみにギリシャは141.1%、ポルトガルは105.7%)。財政赤字の対GDP比率は5.2%で、イタリアの3.8%、ポルトガルの4.4%より高い(スペインは9.4%、ギリシャは9.5%)。

 債務危機は海外投資家が保有する国債の償還を経常収支黒字で賄えないかもしれないという不安によってもたらされた側面があるので、経常収支の対GDP比をみると、フランスは-2.0%、イタリアは-3.2%、スペインは-3.5%と経常収支赤字の規模もそれほど大きく違わない(ギリシャは-9.9%、ポルトガルは-6.5%と比較的高い)。

 その他、プライマリーバランスの赤字やネットの政府債務残高の対GDP比率など、債務危機を起こしそうな国を選別する基準となる指標のほとんどが、イタリアやスペインと同水準なのである。

 また、景気の現状もかなり悪い。2013年1-3月期の実質GDP成長率は季調済年率換算で-0.7%と2四半期連続のマイナス成長となった。個人消費、設備投資の減少が続く中、昨年終盤から住宅投資も減少に転じており、内需の低迷が顕著になっている。4月の消費者物価指数は前年比+0.7%であるが、インフレの上方バイアスが1%程度あることを想定すると事実上のデフレ局面に入った可能性が高い。

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