『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(佐々木実 著)
~はじめに より 抜粋

はじめに 「改革」のメンター

「成長戦略に打ち出の小槌はなく、企業に自由を与え、体質を筋肉質にしていくような規制改革が成長戦略の一丁目一番地」

 二〇一三(平成二五)年一月二三日、安倍政権が新たに設置した産業競争力会議の初会合で、民間議員である竹中平蔵はさっそく宣言した。かつて小泉政権で「構造改革」の司令塔役を果たした彼にとっては久々の表舞台だった。ささやかながらそれは復活の狼煙でもあった。

〈企業・産業に「自由」を与える〉

『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』
著者=佐々木実
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 産業競争力会議の面々に配付した「竹中メモ」で、政府の役割を竹中はそう規定した。「企業の自由」を確保し、拡大させること。それが安倍政権の果たすべき使命である。

〈新自由主義とは何よりも、強力な私的所有権、自由市場、自由貿易を特徴とする制度的枠組みの範囲内で個々人の企業活動の自由とその能力とが無制約に発揮されることによって人類の富と福利が最も増大する、と主張する政治経済的実践の理論である〉

 経済地理学者デヴィッド・ハーヴェイの「新自由主義」の定義にしたがえば、竹中の復活宣言を「新自由主義者の闘争宣言」と読み換えることもできる。

 産業競争力会議が初会合を開いた翌日、安倍政権は規制改革会議を始動させた。冒頭あいさつに立った安倍晋三総理は、
「規制改革は安倍内閣の一丁目一番地であります。成長戦略の一丁目一番地でもあります」
 と意気込みを語っている。前日の竹中の言葉を鸚鵡返しになぞったわけだ。竹中にとってはまずまずの滑り出しだった。再び「改革」の歯車が回りはじめたのである。