官々愕々
電力、経産省、メディアの嘘

 5月22日の日経新聞1面トップに「中部電、東電と発電所建設」という記事が躍った。

 設備投資に回す資金調達に困った東京電力は、中部電力と共同(出資比率東電1割、中電9割)で石炭火力発電所を建設し、発電した電力の3割を中部電力が引き取るが、それを中電は自社管内だけでなく、一部を東電管内でも販売するという内容だ。華々しい扱いだが、実は、こうしたことがニュースになること自体、本来おかしいということをご存知だろうか。

 日本の電力市場は、2000年から段階的に自由化され、現在は、50キロワット以上の工場やオフィスには、大手電力会社がその担当する地域を越えて供給することは自由だ。中電が東電管内の工場に電気を売ってももちろん何の問題もない。要は、本来なら今回の件は驚くような内容ではないのだ。

 しかし、実際に越境供給が実現しているのは、中国電力管内にある広島のスーパー「イオン」に九州電力が供給している1件だけ。越境して競争することはタブーになっている。日経新聞でさえ、この事実を指して、「『暗黙の了解』があるとされ」と書いた。暗黙であれ、そんな合意が本当に存在すれば、「地域分割カルテル」であり、独禁法違反のはずだ。

 経産省は、50キロワット以上の大口向けが市場の6割を占めているので、「日本の電力市場の6割は自由化されている」と豪語していた。しかし、それは建て前だけのことだった。何故そうなったかと言うと、経産省が電力業界と天下りなどで完全に癒着していて、決して競争を促すような政策を採らなかったからである。

 電力会社の大本営発表を真に受けた新聞は、ご丁寧に「地域独占に風穴」という小見出しをつけた。しかし、本件はむしろ、9電力会社間で、今もなお、「越境競争自粛」という暗黙の秩序が生き残っていること、そして、それを経産省が引き続き容認する立場を維持しているという事実を示している。

 東電はお金がなくて困っている。そこで中電が9割の資金を出した。しかし、中電が引き取る電力は、何故かわずか3割で、しかもそのうちの一部しか東電管内で販売しないという。7割は、東電が引き取り、他の電力と混ぜて高い料金で売ることになる。

 何かおかしくないか? 東電は被災者のための損害賠償や汚染水処理があり、お金がない。それなら、わざわざ1割出資するよりも中電100%でやらせた方がいい。中電が全ての電力を買い、その大半を東電管内で直売すると、電力料金は東電よりかなり安くなるはずなのに、どうしてそうしないのだろう、と誰もが思う。

 その訳は、そうすると東電が困るからというだけではない。これを認めると、他の電力会社も東電管内になだれ込み、競争が始まる。それが他電力の管内にも及び、これまでの「暗黙の了解」が壊れて、9電力会社間の本格的競争の引き金になるから困るのだ。そこで、他社管内で直売する時は、その地域を担当している電力会社が出資するなどして関与し、外部からの販売は一定の量にとどめ、決して価格競争が起きないようにするという措置が採られたと見れば、今回のプロジェクトの複雑な構造がすっきり理解できる。

 本来なら、東電の出資はダメだ、もっと競争しなさい、と経産省が言えばよいはずだ。支配株主である経産省はそれくらいのことはすぐにできる。しかし、そういうことは決して言わない。

 電力業界の暗黙の了解に加担する経産省。電力事業の規制権限を、一日も早く経産省から切り離さなければならない。

『週刊現代』2013年6月8日号より

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 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。