橋下発言で広がる歴史認識と憲法改正問題の波紋
舛添 要一
〔PHOTO〕gettyimages

 橋下大阪市長の従軍慰安婦や沖縄の米兵をめぐる発言が、大きな波紋を呼んでいる。内外の人権団体からの批判のみならず、韓国、中国、ロシア、アメリカ政府や国連からも問題視する意見が表明されている。さらには、東京都議会選挙や参議院選挙を前にして、みんなの党は、維新の会との選挙協力を解消することを決めた。また、維新からの立候補を断念する候補者も出てきている。

 橋下氏は、連日、ツイッターやメディアを通じて、釈明を繰り返しているが、騒ぎは容易に収まりそうもない。橋下氏の政治生命はこれで終わったという意見すらある。しかし、テレビのワイドショーなどは、橋下氏が出れば視聴率が上がると思っているからか、同氏をスタジオに招いて、意見開陳の機会を与えている。

日本全体の右傾化懸念

 安倍内閣が、憲法改正や歴史認識でナショナリズム色の強い姿勢を示していることを背景に、橋下発言は、海外では日本全体の右傾化の一環という文脈でとらえられているようだ。そのため近隣の韓国や中国との関係改善は、ますます困難になってきている。

 また、どの政党も、維新の会との違いを鮮明にしないかぎり選挙が戦えない状況にすらなりつつある。とりわけ自民党は、衆参両院で三分の二の多数を形成して憲法改正を実現させようとしているが、維新の失速は大きな誤算であり、戦略の見直しを迫られている。

 憲法96条は、憲法改正手続きを定めたものであるが、発議のための条件を衆参の総議員の三分の二から二分の一に緩和しようというのが、自民党の主張である。それ自体は、国民に憲法改正提案を容易に提示できるようにしようという考えであり、肯定的に評価してよい。最終的には国民投票で決着をつける話であるから、国民の判断を信じればよいのである。

 しかし、ポピュリズムに流される危険性を危惧する論者からは、96条の改正には反対の意見が強い。世論調査を見ても、反対論のほうが多い。その調査結果を見たからか、安倍首相もまた、今はまだ96条の改正は通らないという発言をしている。よって、この問題は選挙の結果を左右するほどの争点にはなるまい。

 ただ、今の自民党は、憲法改正問題を国民に提示する手法について、少し稚拙なような気がする。背景には、自民党憲法改正案の第一次草案(2005年)と第二次草案(2012年)の違いがある。

 前者は、私も事務局次長として起草作業に当たったが、当時は政権党であり、いかにして三分の二の多数を獲得するかに腐心した。与党のみならず、野党を巻き込まないと駄目なので、例えば、9条の改正については、「国防軍」ではなく、「自衛軍」としたのである。ところが、第二次草案起草時は、自民党は野党であり、民主党政権を激しく攻撃する立場にあった。そこで、右寄りのスタンスからナショナリズム色を強めた改正案をまとめあげたのである。

 しかし、昨年末の政権交代で自民党が政権に復帰して以降、野党時代に起草した右寄りの憲法草案が、必ずしも政権運営にプラスにはならないことが明らかになってきている。第一次草案でも、96条の改正条件緩和、第三章(国民の権利及び義務)で「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に代えることは盛り込まれているが、それらが、今回のように問題視されることはなかった。政権党は、政策提示の手法について、慎重でなければならないのである。

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