「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第29回】
「嫌なこと」から逃げようとする息子は、将来、生きていけるのか

【第28回】はこちらをご覧ください。

「今日、学校に行くのは絶対に無理だからね」

 ゴールデンウィークの最中、僕が不用意に発した「今年はリレーの選手になれるんじゃないか」という一言がきっかけで、息子は登校しなくなってしまった。そして、連休が明けた火曜日、「お腹がとても痛い」と言って学校に行こうとしなかったのはすでに述べた通りだ(第28回参照)。

 水曜日の早朝、寝ていた僕は、急に腹の辺りで何かがもぞもぞと動く気配を感じ、目を覚ました。見ると、息子が僕の布団に潜り込んでいた。それ自体はたまにあることだったので驚かなかったが、最近は仕事が忙しく、いくらか寝不足気味だったので、さすがにうんざりしてしまった。

 枕元の時計を見ると、ちょうど5時半を指している。どうやら、いつものようにきっかり5時に目覚め、布団をかぶって30分間あれこれ考えごとをした後、5時半に起き上がってここへ来たのだろう。僕があくびをしながら、

 「どうした? 何かあったのか?」

 と聞くと、息子は僕の腰にしがみついてこう答えた。

 「お腹が痛い。頭も痛い」

 「何だ、両方とも痛いのか?」

 「そうだよ。だから、どうしても学校に行けない。学校に行きたくない」

 以前であれば、息子のそんな訴えを無視して放っておいても、とりあえずは何とかなった。しばらく経つと諦めて、ぶつぶつ文句を言いながらでも登校してくれたからだ。

 しかし、最近は様子が違った。特に前日(火曜日)は、腹痛を訴えたあと、学校へ行くかどうか迷う素振りすら一瞬も見せず、しゃがみ込んでじっと床の一点を見つめ、取りつく島もないという感じだった。

 今日も昨日と同じく、頑なに動こうとしなくなるのだろうか? 慌ててそんなことを考え、かける言葉を探していると、息子は「お父さん、聞いてるでしょ。僕は今日、学校に行くのは絶対に無理だからね」と念押しするように小声で言って、僕たち夫婦の寝室から走って出て行った。

寸分違わぬパターンを、毎朝繰り返す息子

 息子はそのまま自室に戻り、朝食の時間になっても、登校時間になっても出てこなかった。僕と妻が何度か息子の部屋を覗き、

 「お腹や頭がどう痛いのか、詳しく話を聞かなきゃ、どうすればいいかもわからないよ。一度、リビングにおいで」

 「とにかく起きて朝ご飯を食べなさい」

 などと言い聞かせたが、まったく効果はなく、頭から布団をかぶって返事もしなかった。やがて8時を過ぎ、根負けした僕が「じゃあ、今日は休みにするしかないな」と声をかけると、息子は初めて弱々しい声を出し、「わかった」と一言だけ答えた。