読書人の雑誌『本』
『「動かない」と人は病む――生活不活発病とは何か』著:大川弥生
ボク、卵にもどった。 おじいちゃん、ゆで卵になっちゃうよ。

 大学病院の小児科でのこと。「ボク、卵にもどった」と、突然けんじ君(仮名)が言ったのでびっくりしました。

「二歳の男の子が心臓の手術後歩けなくなったので診てほしい」と依頼が来たので往診し、お母さんと彼の両方に「病気になる前の状態」について聞いていたところでした。

 よく聞いてみると、「これ以上は動いてはいけません」という「安静度」の指示が、いかにも小児科らしく、「卵」→「ひよこ」→「若どり」→「親どり」と、かわいい絵とともに枕元に表示されていました。それで彼は、「ほとんど歩けず、いつもベッドの上」という自分の状態を「卵」と表現したのです。手術の前は屋外も一人で歩いていたので、「親どりさんだった」のだとも言っていました。

 けんじ君の病気は「生活不活発病」でした。

 生活不活発病は、その名の通り、「生活が不活発になった」ことが原因で、全身の様々なはたらき(機能)が低下する病気です。けんじ君の場合は心臓の手術の後、発熱などもあって一ヵ月以上寝てばかりいたことが原因でした。

 この病気は誰にでも起こる可能性がありますが、特に高齢者に起こりやすいものです。「健康で活力ある長寿社会を築く」ためには生活不活発病を防ぐこと、早くみつけて回復させることは大きな課題です。

 高齢の方で、退院して病気は治ったはずなのに、だんだん元気がなくなったり、風邪をこじらせて寝ていたらいつの間にか歩けなくなったということを耳にされたことはありませんか。定年後に家にばかりいて足腰が弱った人、息子夫婦と同居してから体が弱った母親、脳卒中の後、一度はうまく歩けるようになったのに、再び歩けなくなった人など、これまで様々な人をみてきました。

 きっかけは違いますが、共通しているのは「生活が不活発になった」ことです。それが手足をはじめ全身の機能を弱らせたのです。身体だけでなく知的な活動も低下し、認知症のようになることさえあります。

「病気の後だから仕方ない」「年だから仕方ない」と思われがちなことが、実はこの生活不活発病であることは多く、また普通の病気に生活不活発病が重なっていることもしばしばあります。

「体も頭も使わないとなまる」ということは、皆さん「常識」としてご存知でしょう。しかしそれが、ふつう考えているよりもはるかに強く、そして様々な意外なかたちで起こってくることや、うっかりしていると「寝たきり」にまでなってしまいかねない、「こわい病気」であることはあまり知られていません。

 
◆ 内容紹介
「体がだるくてボーっとする」「なかなか病気が治らない」のは年のせい? 定年後に元気がなくなってしまうのはなぜ? 実は「動かない」だけでかかる生活不活発病という病気があります。これは誰にでも起こる可能性があり、またうっかりしていると寝たきりにまでなりかねないこわい病気です。年を重ねてもいきいきと充実した生活を送るために知っておきたいことを、生活不活発病を中心に介護の専門家がやさしくかたります。