「徹底討論TPP~日本の農業は壊滅するのか、生まれ変わるのか」
2013年4月25日19時30~放送分 【第1回】

[左から] 鈴木宣弘さん(東京大学大学院農学生命科学科教授)、篠原孝さん(民主党衆議院議員)、石川和男さん(政策家/社会保障経済研究所代表)

現代ビジネス: ニコニコ生放送をご覧のみなさん、こんばんは。講談社・現代ビジネスがお届けする「政策講談---それ本当ですか?」第3回です。

 前回は、自民党・塩崎恭久政調会長代理、民主党・渡辺周元防衛副大臣、そして軍事ジャーナリストの潮匡人さんをゲストにお招きし、外交・安保をテーマに議論していただきました。その際に、TPPも取り扱おうと思っていたのですが、残念ながら時間切れとなってしまいました。そこで今日は本格的にTPPについて、特に農業分野に関して議論を戦わせていただこうと思っています。

 ご登場いただくのはTPP参加慎重派からは東京大学の鈴木宣弘先生、民主党衆議院議員で元農水副大臣の篠原孝先生。お二人とも農水省のご出身でもあります。司会の石川和男さんは経産省ご出身ということでもあり、今夜は司会役を離れて、推進派代表として激論を交わしていただきたいと思います。では石川さんよろしくお願いします。

(※この原稿は、3月21日20時半~21時半に行われた「政策講談」第2回を書き起こしたものです。書き起こしにあたっては、読みやすくするために必要最低限の編集を行っています。)

ほとんどの国会議員は「TPP」という言葉すら知らなかった

石川: 今日は番組予告でもあったように、農水省出身で慎重派の篠原先生、鈴木先生、経済産業省出身で推進派の私がガチンコバトルを繰り広げ、おそらく私が一敗地にまみれるような感じで番組が進んでいくのかなと思っております(笑)。篠原先生、鈴木先生よろしくお願いします。

 TPP自体、私自身は全体的には進めればいいと思っております。民主党政権時には交渉参加は「まだダメだ」ということで前進せず、自民党政権に代わっても初めは党内の反対派が「交渉参加なんか認めない」と怪気炎を上げていました。しかし、安倍晋三首相のリーダーシップで結局、交渉参加が決まった。篠原さんが農水副大臣という要職をお務めになっていたのは菅直人内閣でしたね?

篠原: そうです。

石川: 菅さんは2010年11月、横浜で行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議: アジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組み)の首脳会議に臨むに当たり、APEC最高経営責任者サミットでTPP交渉参加について言及し、「関係国との協議を開始する」「平成の開国を行う」と高らかに表明しましたね。その内閣の農水副大臣であれば、TPPを推進しなければいけない立場上だったんじゃないですか?

 環太平洋戦略的経済連携協定: モノやサービスの貿易自由化にとどまらず、政府調達や競争政策など幅広い分野を対象とした包括的自由貿易協定。原則としてすべての物品の関税撤廃を目指している。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヵ国による自由貿易協定からスタートし、現在はアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダが交渉に参加している。

篠原: いやい や、全然違うんです。あの当時、石川さんもご存じでしょうが、TPPなんて言葉を知っている国会議員なんて10人もいなかった。10月の所信表明演説で突 然、出てきたんです。大畠章宏経済産業大臣ですら初耳で、民主党の議員の大半は見たことも聞いたこともなかった。大臣レベルでも、鳩山政権からの引き継ぎ の最中だったのでTPPにまでは目が届いていなかった。当然、党内の議論も、もちろん国会の議論も全然していません。

 石川さんはおわかりだと思いますが、自民党時代は所信表明を短冊(霞が関の各省庁が自らの役所で推進したい政策をペーパーにまとめて官邸に届け、 官邸ではそれを束ねる形で所信表明演説を作成する。各役所が作るドラフトを「短冊」と呼ぶ)で作っていたんですが、民主党政権になってそれをやめていたの で、農水省関連でどんなことが所信表明に盛り込まれるかはわからなかった。ところが、直前になって、あまりに内容がひどいということで私のところへ報告が 上がってきたんです。

石川: 副大臣のところに直接? それはちょっと異例ですね。

篠原: それで私は、所信表明の取りまとめをしていた官房副長官の福山哲郎さんと古川元久さんに電話をして乗り込んでいって、福山さんに「全然議論されていないのに、なんで総理がいきなり言うんだ」と抗議した。

 当時、私は副大臣ですから、カウンターパートは福山官房副長官。でも、菅さんのところに直接乗り込んでいけば、TPPを演説に盛り込むのを阻止できたと少々悔やんでます。なにしろ、菅さんも内容をわかっていなかったから。でも、副大臣は副大臣同士で話すのがルールで、直談判はできなかった。

石川: 菅さんが高らかに宣言したのは2010年ですから、震災前ですね。その頃は確かに、私もTPPのことを知らなかった。突如として登場したという印象ですね。もともとTPPは環太平洋の小国と言っては失礼だけど、ブルネイなど4ヵ国が始めた自由貿易の枠組みに途中からアメリカが入って大きくなった。それでオーストラリアやニュージーランドも加わってきた。でも日本は、様子を見ていたんですよね。

篠原: 野田佳彦前総理や安倍晋三総理もそういう気(け)があるけど、菅さんにも「格好いいことをやりたい」という願望があるんです。それでAPECの首脳会議の場で、何か新しいかっこいいことをやりたいと思って、外交案件であるにもかかわらず、根回しもせずに言ってしまった。

 みなさんも覚えているかもしれませんが、外交が苦手な菅さんは緊張していて、APECでの2国間の首脳会談の時には、発言メモを持って会談していた。メモを見ながら会談する様子がテレビで放映されましたが、あのメモは緊張していた証なんです。

石川: 持っていないと心配なんだ(笑)。

篠原: そこは真面目なんです。野党時代は国会で人を攻撃したり、相手のミスを追及するような意地の悪い質問なんかは原稿なしでできたけど、いざ国会答弁になると、応答要領の原稿を読み上げてばかり。適当なことを言っていいわけじゃないけど、ある程度は自分流にアレンジしてもいいのに、案外それができない人なんです。

石川: 総理になる前は菅さんイコール民主党のイメージで、総理になってもガンガン自分の好きなことを言うのかなと思ったら、まるで違いました。閣僚になると、あんなにも変わるモノなんですね?

篠原: 閣僚というか総理になって、元来の根の真面目さが出たということでしょう。私が農水相時代に仕えた閣僚では玉澤徳一郎(自民党元衆議院議員、防衛長官、農林水産大臣を務めた)さんがそうでした。玉澤さんは農林族だから、農水のことをよくわかっていたんですけど、答弁では絶対に迷惑をかけてはいけない、変なことを言ってはいけないという哲学を持っていたため、必ず文書を読むようにしていた。菅さんにそこまで哲学があったかどうかわかりませんが、答弁の時は決まってメモを読み上げていましたね。

 まあ、それはともかく、TPPへの交渉参加を検討し始めたのは2010年の10月ですけど、同じ年の7月下旬に経済連携閣僚会議というのがあり、そこでTPPの話が出てきていたんです。そうしたら山田正彦農水大臣が「変なのが出てきた。俺はこんなの嫌だから、お前に任せる」と言って僕に資料を渡した。見たら、確かにその中にはTPPと書かれていた。

石川: 山田大臣が「お前に任せる」って言ったんですか?

篠原: そうです。確か7月下旬ですよ。まずは6月に鳩山内閣から菅内閣に引き継いで、9月17日に菅改造内閣が発足し、そして11月14日にAPECがありました。そういう慌ただしいなかで、菅さんはたぶん、官邸にたくさんいる外務省や経産省のみなさんに知恵をつけられて、「こうやったら格好いい」と思い込まされてしまったのかな、と思います。

石川: 知恵だったかどうかは微妙ですね。知恵は知恵でも、悪知恵(笑)。

篠原: 私はちゃんと「知恵」と言いました(笑)。

石川: 私も役人出身だからわかりますけど、TPPの最初の出方が唐突だったのは、役所のなかで、総理が喜びそうな目玉になる案件はないかと探したら、ちょうどTPPがあったわ、というレベルの話だったからじゃないですかね。電力自由化みたいなもので。

篠原: だから、TPPは出自からしてかわいそうな運命を辿っているんですよ。

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