TOEFLは学習成果をはかる試験ではない。日本の英語教育における政府の不毛な議論と無謀な学習計画
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」読書ノートより

読書ノート(No.36)

◆鳥飼玖美子「世界に通じる英語教育とは」『月刊日本』2013年5月号 53~54頁

 英語通訳、英語教育の第一人者である鳥飼玖美子氏が、自民党教育再生本部の答申の英語教育に関する部分を手厳しく批判する。

――自民党教育再生本部が答申を安倍総理に提出した。そこでは大学入学または卒業要件にTOEFLを活用することが盛り込まれている。これは学校教育において「実用英語」を重視する流れの一環だが、日本の英語教育については長年、様々な議論がなされてきた。

 鳥飼 不毛な議論が交わされてきたんです。よくある議論は、日本の学校英語は文法や読解中心で、コミュニケーションを軽視してきたという誤解に基づいたものです。実はすでに20年前から学習指導要領ではコミュニケーション重視型にシフトしており、入試では会話問題も多数出題されていますし、センター入試試験でもリスニングが課されるようになっています。

 しかし、ここで強調しておきたいことは、コミュニケーションと一口に言っても、レベルがあるということです。子供には子供の英語があり、大人には大人として身に付けるべき英語がある。中学校では英語の基本的な表現や文法の基礎を学び、高校では、大人の英語に必要な文法や構文の知識、英語の論理的文章構成法などを学びます。そして大学で、英語で発信する異文化コミュニケーション能力を養う、これが大人としてのコミュニケーション能力を養う手順です。

 ところがTOEFLを大学入試で活用するとなると、そもそも日本の高校生は語彙力からして無理です。自民党政権下で語彙は一貫して減らされており、1951年に上限6800語だったものが2200語まで下がり、新学習指導要領では少し増やしたといってもたかだか3000語です。これでは語彙面だけでもTOEFLに太刀打ちできません。なにしろ、TOEFLは北米の大学で講義についていけるかどうかの英語力を測る試験です。

 欧米の大学は、とにかく大量の文献を読ませます。そしてそれを読み込んできたことを前提に、教師が講義をし、あるいは学生による発表やディスカッションをします。そこで求められるのは、読んだり聞いたりしたことをふまえて、自分の意見を言い、その理由を述べるという英語的論理に基づく運用能力です。だからTOEFLではリーディング、ライティング、リスニング、スピーキングの四分野とも極めて高い論理的な英語力を要求しています。

 センター試験の英語の問題など、TOEFLに比べればおままごとです。高校卒業程度でそのレベルを求めるというのは酷というものです。平均点が低過ぎて英語運用力判断の材料にはならなくなるでしょう。そもそも、TOEFLは、学校で学んできた教育成果を見る試験ではないわけで、それも知らないで安易に導入を提案している再生会議の議論に驚きました。

 一般論として、学力のない者が、学習計画をつくると、実現不可能な課題が大量に盛り込まれる。

 いずれにせよ、実務外国語においては、文法と語彙が生命線になる。英語に関しては、高校で習得する語彙数を1951年当時の6800語に戻すことが急務と思う。

そもそも、TOEFLは、学校で学んできた教育成果を見る試験ではない」という指摘はその通りで、むしろ、TOEFLは、外交官並びに米国への留学が前提とされる中央官庁の官僚を志望する者に課すべきだ。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・鳥飼玖美子 『「英語公用語」は何が問題か』 角川oneテーマ21 2010年
・黒田龍之助 『語学はやり直せる』 角川oneテーマ21 2008年
・船橋洋一 『あえて英語公用語論』 文春新書 2000年
※読書ノートNo37~39はメルマガでご覧いただけます。
※佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」は、申し込み月は無料で試し読みができます。
※バックナンバーは発行翌月から有料となります。(月額税込:1050円 / 発行周期:第2・4水曜日+号外)
この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら