サッカー
二宮寿朗「カズというかけがえのない宝物」

 バルーンが弾け、中から真っ赤なジャケットを着た男がポーズを決めて登場する。
 この一文だけでサッカーファンならピンと来るだろう。いや、サッカーファンじゃなくても、きっと多くの人が記憶しているワンシーン。Jリーグが開幕した1993年シーズン、カズこと三浦知良は最初のリーグMVPに選ばれ、その授賞式で華々しく人々の目の前に出現したのだった。

カズから始まった日本サッカーの進歩

 あれから20年。壇上には横浜FCに所属する46歳になったカズがいた。
 Jリーグ20周年記念パーティーが過日、都内で盛大に行なわれ、過去20年間における「Jクロニクルベストイレブン」のサポーター投票で最多得票数を獲得したカズは特別ゲストとして招待された。濃紺のスーツをビシッと着こなし、黒髪に混じった白い髪すらお洒落に見えてくる。威厳から醸し出されるそのオーラは、20年前とはまた違う重厚なる輝きがあった。

 絵になるスーパースター。今もなお現役として走り続ける先駆者は、マイクの前に立つとこうあいさつした。
「この20年、1日1日を大事にして過ごしてきました。練習でやっていることを、ピッチの上で出していく、その繰り返し。今でも試合に出られなかったら悔しいです。僕は20年前の情熱を、今も失ってはいません」

 この20年で40クラブに膨れ上がったJリーグの成功は、地域密着、サッカー文化の定着など、さまざまな要素がある。しかしあらためてカズを目にして思ったのは、カズという財産があればこその成功でもあったということだ。パーティーに出席したジーコは真面目な顔で言った。「日本サッカーの進歩はすべて彼から始まった」と。

 日本でプロサッカーリーグが成功するには、ファンを引きつけるプレーヤーが次から次へと育っていかなければならない。その意味で彼はこの20年、先駆者として後進に道をつくり、サッカーマンが持つべき姿勢の模範を背中で示してきた。

 カズに影響を受けてきたプレーヤーがどれほどいようか。代表で一時代を築き上げ、今のJリーグの盛り上がりに一役買っている中村俊輔(横浜F・マリノス)、柳沢敦(ベガルタ仙台)、楢﨑正剛(名古屋グランパス)らをはじめ、若手のなかではマンチェスター・ユナイテッドで活躍する香川真司も有名な“カズ信者”だ。なでしこでは澤穂希(INAC神戸)が憧れの存在であることを明かしている。名前を挙げればもうキリがない。

 日本を代表するディフェンダー、故・松田直樹は高校時代、部屋にカズのポスターを貼っていたほど。ある年のJリーグアウォーズでカズが、りさこ夫人に「彼は日本でナンバーワンのセンターバックなんだ」と紹介したという。「あのときの感動は忘れないよ」と松田が目を輝かせながら語っていたことを思い出した。