官々愕々
原発を売り歩く「死の商人」

 安倍総理のゴールデンウィークの外遊は様々な話題を提供したが、その最後を飾るトルコでの「原発受注」が実は最大のハイライトだったと言ってよいだろう。

 原発推進を至上命題とする安倍政権にとって、福島第一原発事故後、地に落ちた日本の原発に対する信頼を一気に挽回するとともに、最大のライバル韓国に勝ったという意味で大きな成果だった。

 これに対して、脱原発派からは、さまざまな批判がなされている。いずれももっともなことばかりだ。

 福島第一原発の事故処理も終わらず、事故原因さえ不明なまま総理がトップセールスで原発を売り込むことは倫理的に許されない。安倍総理が「世界一の安全基準を満たす日本の原発」と言ったが、まだ新しい安全基準は完全には出来上がっておらず、しかも今提示されている基準の内容は欧米に比べて極めて遅れていて不完全だ。原発の安全に関する欠陥の話をすると100ページあっても足りない。よく「世界一」などと言えたものだ。

 批判はまだある。最近の途上国での発電所建設案件では、長期の運転保証を求められる。原発運転のノウハウも人材もない状態で原発を動かすから、当然、事故の危険性が高い。事故が起きた時、現地人のミスだと言っても責任は日本企業に及ぶ。政府の融資や保険に大きな損失が出るし、メーカーや参加した電力会社の破綻も視野に入る。

 総理のトップセールス特有のリスクもある。総理案件だということで、無理な契約内容を飲んでしまったり、撤退が必要な時にその決断が遅れて大損をするということが起きる。イランイラク紛争の時に石化プロジェクトで1300億円の損失を被ったのが好例だ。

 では、安倍政権は原発輸出に何故こだわるのか。

 それは、原発輸出を日本の原発維持ともんじゅを含めた核燃料サイクル推進の切り札にしたいからだ。

 原発を建設した途上国には使用済み核燃料がたまる。原発導入国には、核爆弾を製造したいと考えている国も多い。軍事転用を禁じる原子力協定が永遠に守られるとは限らない。中東近辺では、インド、パキスタン、イスラエルが核を保有し、イランも開発を行っている。他の国が核開発をしたいと考えても不思議ではない。各国とも使用済み核燃料を再処理して核爆弾の原料となるプルトニウムを抽出したいと言い出すだろう。

 日本の原発企業の力を借りて、自国の原発企業の輸出を振興したい米国にとって、この問題は頭痛の種だ。そこで登場するのが、「正義の味方」日本である。途上国の核のゴミを一手に集め、日本で再処理をして新たな核燃料として各国に戻す。日本の国民から見れば、とんでもない暴挙だが、安倍政権は、これを「世界貢献」であると考えている。核不拡散のために日本が貢献するしかないという理屈だ。これは昨年から経産省官僚と自民党議員らが描いてきた青写真に沿って進められている。

 日本がこうした「世界貢献」を果たすためには、日本として核燃料サイクルを大規模に展開しなければならない。当然、瀕死状態の高速増殖炉「もんじゅ」も建設続行ということになる。もんじゅは、1万点の点検漏れを理由に運転停止命令ということになったが、逆に言えば、点検が終われば運転が許されるというようにもとれる。

 原発輸出で原発事故と核拡散の種をばらまくということは、まさに「死の商人」そのものだ。安倍総理が再生可能エネルギーやスマートシティなどを売り歩く「夢の商人」になるというのは「夢物語」なのだろうか。

『週刊現代』2013年6月1日号より

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「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。