経済が良くなれば財政も良くなるに決まっている! 長期金利上昇"から騒ぎ"の背後に透ける財務省の思惑とは

 先週は、長期金利(10年国債の利回り)上昇について「から騒ぎ」があった。この種のタイプには三つある。第一に、長期金利が上がると、国債価格が下がって金融機関は経営が危なくなる【金融機関問題】、第二に、黒田緩和は円安、株高には成功したが、長期金利上昇を招き景気に悪影響が出る【景気問題】、第三に長期金利が上がると利払費が増加し財政再建ができない【財政問題】だ。

 第一の【金融機関問題】では、債券で儲けられなければ、株や貸出で儲ければいいだけだ。実際、大手銀行5グループの2013年3月期決算の純利益の合計は、1年前に比べ8.9%増の2兆6,161億円となり、6年ぶりに高い水準だった。その理由は、株高や投資信託の販売が好調だったためだ。

 第二の【実体経済問題】は、名目金利だけしか見ずに、実質金利を見ない間違いだ。実体経済に影響を与えるのは、名目金利ではなく実質金利(=名目金利-予想インフレ率)である。これは、アベノミクスのキモといえる部分であるが、アベノミクスがスタートした今年初めから、予想インフレ率が急上昇したこともあり、実質金利は急速に低下している。1年前には0%程度だった実質金利が、現在では▲1.4%程度になっている。

 実質金利が下がっているのに、実体経済に好影響が出ないはずはない。実際に、各種の経済統計にはいい数字が出始めている。

 これらについては、デフレ下では主役であった金融機関の債券部門が慌てふためいているだけだ。デフレ下では債権部門が金融機関の稼ぎ頭であったので、金融機関系エコノミストやマスコミがその主張に同調している。そもそも、金融機関の本業は貸出であり、すべての金融商品の中で最低金利である国債の運用で儲けていたデフレ期が異常だった。詳しくはここを参照して欲しい。

 第三の【財政問題】については、実質金利が下がれば経済が良くなるので、経済の一部である財政も連れて良くなるという一言でお終いでいいのだが、いろいろと手を変え品を変えて財務省がマスコミに吹き込むので、これには要注意だ。

長期金利が上がっても財政再建に支障はない

 まず、財務省の言い分を見ておこう。

 財務省のホームページに「副大臣がお答えします」というコーナーがある。その中で、「経済成長による財政収支の改善」というタイトルで、「経済成長すれば増税しなくても財政再建は可能という説がありますが、どのように考えていますか?」という質問に対して、「財政構造の是正を同時に図らない限り、経済成長のみによって財政収支を持続的に改善することは困難です」と答えている。

 回答の中に、「参考2」として「名目成長率が平成24年度に1%上昇した場合(長期金利は0.55%上昇)の税収及び国債費に与える影響の試算」があり、国債費増加額が税収増加額より上回るという数字が示されている。

 ここにトリックがある。まず、計算しているのは3年間だけだ。ある自民党有力議員が、自民党が野党時代に財務省の計算をもっと長く、例えば10年間にせよと指示したが、財務省は徹底してこれを無視した。もし10年間も計算してしまうと、ある年度で税収増加額が国債費増加額を上回り、財務省にとって不都合なのだ。

 さらに、歳入については、税収弾性値を低く見積もることで、税収増がないような計算をする。過去15年間の税収弾性値(名目GDP伸び率に対する税収伸び率)は、税制改正による増減税を無視すると、平均で4になっている。

 なお、この数字に対して、この間の名目成長率の増加は少なかったので、税収弾性値が高めに出ていると財務省は反論する。副大臣の答えでは、「注2」で「例えば2002年11.2(税収▲8.6%、名目成長率▲0.8%)といった異常値も含んでいます。」と書かれ、「本来の税収弾性値は低下傾向(1強程度)と見られています」としている。

 その補強材料は、財務省の息のかかった内閣府で2011年10月17日、有識者会議(座長・岩田一政元日銀副総裁)がまとめた、名目成長率を高めて税収を増やしても財政再建はできないとする報告だ。

 報告書の結論では、「1980年代のデータから算出される税収弾性値は1.3前後である。~現在の税収弾性値は1.3を下回っている可能性が高いと考えられる。したがって、高い税収弾性値を前提に、インフレや名目成長によって大きな自然増収を期待することは適当ではない」とされている。

 もっとも、その報告書の中で、2001-2009という期間でみて、税収弾性値実績では4.04、改正なしでは3.13という数字もある。たしかに、税収弾性値の4は大きいとしても、過去15年間の成長率変化幅、税収弾性値をそれぞれ横軸と縦軸のとった下図を見ればわかるように、常に税収弾性値が高めに出るわけでない。

 仮に、高めに出たものを異常値処置したとしても税収弾性値は3程度はある。その理由は簡単で、法人税収などでは、景気の善し悪しで税収ゼロから一気に納税となるからだ。

 財政再建を検討する期間はせいぜい10年間である。その場合、直近の10年間の税制改正なしの税収弾性値として、内閣府の報告書で書かれている3.13を無視して、1強程度というのは言い過ぎだろう。景気回復局面で、法人税収の弾性値が大きいのは、財務官僚なら誰でも知っていることだ。

 いくら策を弄しても、名目経済が成長すれば財政再建が容易になるというのは、プライマリー収支が1年前の名目経済成長率でほとんど決まってくるという下図が物語っている。

 さらに、下図を見ると分かるように、名目経済成長率は2年前のマネーストック伸び率でほとんど決まってくる。

 となると、アベノミクスで名目長期金利が多少上がろうとも、経済成長があるので、財政問題はまったく心配なく、むしろ増税なしで財政再建できるとさえ言える。

 財務省は「増税しないと長期金利が上がります」と言って、増税を慫慂している。ところがその財務省にとって、アベノミクスの金融緩和は、長期金利が上がっても財政再建に支障があるどころか、増税なしでも財政再建ができてしまい、目の上のたんこぶなのだ。もちろん、国民にとっては何の問題もない、まっとうな政策だ。

  最後に気がかりなのは、与謝野馨氏の自民党復党だ。本コラムでも、2年半前に、『政策通どころか「珍発言」を連発!安倍、福田両政権が1ヵ月で崩壊した与謝野大臣は政権の「墓堀人」 』を書いた。与謝野氏は、アベノミスクに批判的で、インフレによる財政健全化策は俗論だと公言していた。アベノミクスにまた一つ懸念材料がでた。

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