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結果的に幸せだった「がん宣告」それでも治療を選ばなかった人たち
〔PHOTO〕gettyimages

 がんになったら治療を受ける。いまやこれは当たり前のことではなくなってきている。治療を拒否すれば、死は確実に近づいてくる。けれど、残りの命と引き換えにしてこそ得られるものもある。

静かに眠るような最期

「僕はもう死ぬよ」

 2011年2月、ドラマ『水戸黄門』『部長刑事』などで名脇役として活躍した俳優の入川保則氏(享年72)は、所属事務所社長の井内徳次氏にこう告げたという。

「がんで、もう半年も生きられないと言うのです。それまでは普通に舞台にも出演していましたから、青天の霹靂でした。今後どうしていくつもりか聞くと、治療は一切しないという。『僕はもういい。人生の幕が来たんだ。役者として死なせてほしい』と」

 じつは入川氏のがんは、前年の7月に見つかっていた。直腸がんでステージはⅢ。すぐに手術を受けて腫瘍だけは切除したが、それは一時的な処置に過ぎなかった。

「確実に転移するから抗がん剤治療をしたほうがいい」と医師から言われたが、すでに入っている仕事をキャンセルするわけにはいかない。年末までの仕事をこなし、年が明けた'11年2月。精密検査をした結果、がん細胞が全身に回っていることが発覚したのだった。

「余命は6ヵ月です。あなたに来年はありません」

 主治医からはそう告げられた。抗がん剤治療をすれば、命は多少長らえるかもしれない。けれど、それをやると副作用で動けなくなり、役者生命が断たれる。入川氏は治療を断り、役者として余命を使い切るという選択をしたのだった。