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これが日本の大金持ち「トップ100人」第3部 大金持ちたちは何を考え、何をしたのか 特別対談 森永卓郎×藤沢久美

好きじゃないと続かない

森永 ランキングを見て思いましたが、21世紀に入って経営者の顔ぶれが随分変わりましたね。'99年のITバブルの時は、車はフェラーリに乗っていて、女の子をたくさん連れて毎晩飲み歩くような超バブリーな起業家ばかりでした。

 そんな金持ちは'08年にpaperboy&co.(レンタルサーバー業)を上場させた家入一真さんが最後じゃないでしょうか。

藤沢 家入さんは今、代表を退いて非常勤の取締役ですよね。

森永 上場益の十数億円を3年ですべて使い果たして、一文無しになったけど、彼はそこで学ぶ。おカネは人を幸せにしない、と。ブラックカードを持ち、コンシェルジュに頼めば世界中どこでも最高のゴルフ場を手配してくれるのは便利だけど、それだけといえばそれだけ。だったら自分の好きなことしておカネは生きていける分だけ稼ぐほうが幸せだということです。

藤沢 リブセンス(インターネット求人サービス業)の村上太一さん(最新版長者番付64位。以下、順位表記は同番付のもの)は、上場した時からずっとそんな感じですよね。性格も純朴だし、格好もサラリーマンと変わらない。お金持ちって、すごく高そうな靴を履いているけど、彼はごく普通。だけど、そこが好感を持てるんです。

森永 最近の金持ち起業家は、ビジネスもまともです。携帯電話の販売なのにIT企業みたいなふりをして、莫大な上場益を稼いだ光通信の重田康光さんのような輩は見あたらない。

藤沢 スタートトゥデイ(CDの通信販売から始まり、アパレルのネット通販「ZOZOTOWN」で拡大)の前澤友作さん(7位)は無駄遣いに敏感で、社員には本社がある千葉県の幕張に住むよう推奨しています。おカネの節約もあるけど、通勤が長時間だと疲れるし、時間がもったいないということが理由だそうです。仕事がすんだらさっさと家に帰って家族と過ごすほうがいいじゃないか、と。実際に幕張に住む社員には約5万円の『幕張手当』を出していると聞きました。

 自身も仕事で青山や表参道に行くときは、常に電車を使います。オフィスは黒で統一されてモダンだけど、扉には赤い字で「愛」と書いている(笑)。

森永 ベンチャー企業なのに、オフィスにフカフカのカーペットと豪華なソファを置いているところは、例外なくダメになる。そんなおカネがあるなら投資や借金返済に回すべきです。

藤沢 そういう経営の基本を逸脱していると、投資家にそっぽを向かれて株価も下がるんですね。

森永 ホリエモン(堀江貴文・元ライブドア社長)がヒーローだった時代は、おカネを持った人間が有能だと言われたけど、今は好きなことを仕事にして成功するほうがかっこいい時代になってきましたね。

藤沢 モブキャストの藪考樹さん(38位)が典型ですね。彼は人生を70歳までと決め、「人生の半分は、好きではないけれど、自分に向いていることで頑張って実績と財産を作り、残りの半分の人生は、前半に築いたものを土台にして、好きなことをやろう」と決めたそうです。実際、30代の前半には営業で成果を出して、億単位の資産を築いた。

 そのおカネで始めたのがモブキャストです。同社はスマートフォン向けの野球やサッカーのゲームを開発していますが、社員も野球好きやサッカー好きばかり。上の世代の人からは「遊びを仕事にするなんて、何を甘えたことを」と怒られそうですが、それでも彼らは世界的企業になろうとしている。

森永 新規上場企業に実体が伴ってきたのは、世の中が成熟し、人を騙して大金をかき集めることができなくなったからでしょう。ITバブルの時なんか「eなんとか」と名前を付ければ、どんなサービスだって1000万円単位のおカネで売れましたからね。あれは一種の詐欺でしたよ。

藤沢 たしかに今の起業家は、昔に比べてみなさん真っ当ですね。スタートトゥデイの前澤さんは音楽が大好きで友達にこんなCDがあるよ、と紹介していたのがそのまま会社になった。でも、在庫管理からサイト運営まで、自分で一から勉強する真面目さもある。

 彼らを見ていると、おカネを稼ぐことや仕事は、辛いことを我慢する代償として得られるもの、というのは正しくないということがわかりますね。

森永 先日、石川県の山中温泉で、ある有名企業の社長さんを乗せたタクシー運転手さんからこんな話を聞きました。名所を回ってくださいと言われたので、観光タクシーとして一日借り切ったほうが安いですよと提案したら、「構わない。メーターを倒してください」と。結局料金は10万円以上になって、領収書を渡したら「今日はプライベートだから領収書はいらない」と断ったとか。運転手さんが驚いていると「おカネっていうのは増えはじめると、どれだけ使っても減らないんだよ」と語ったそうです。私なんか710円でもきっちりと領収書をもらうのに……。

藤沢 1000億円の現金があるとしたら、金利が0・1%でも年間1億円。利子だけで遊んで暮らせるわけですからね。

森永 それでも彼らは会社を大きくしたいと考えている。一種の中毒ですよ。

藤沢 新しいものを生み出す快感を知ると抜けられないんですかね。

森永 ある熟年のキャリアウーマンによると、「男は突き詰めれば、女にモテたいとトップになりたい、この二つしか考えていない」といいます。社長になる人ってこの両方がものすごく強い気がしますね。

 起業するような人たちは優秀なサラリーマンになる能力もあるけど、あえて起業したのは、性格がわがままなんです。勤め人ならわかると思いますが、上司は常に理不尽です。そこから解放されるには、社長になるしかない。普通の人は酒を飲んで愚痴を言って誤魔化しているけど、それを我慢できない人が起業するんだと思う。

藤沢 昔は銀座でモテるのがステイタスでしたが、今の若い起業家はそういうのに興味がないみたいです。むしろトライアスロンで身体を鍛える人が増えた。辛い環境に立ち向かうのが好きなのかもしれませんね。

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