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話題の本の著者に直撃!田中森一
獄中で論語を読み直して「恕」の精神で生きると決めた

たなか・もりかず/'43年生まれ。長崎県出身。大阪地検、東京地検両特捜部などを経て、'87年弁護士に転身。'00年に詐欺容疑で逮捕・起訴され、無罪を主張するも'08年に実刑が確定。'12年11月に仮釈放。現在は論語を学ぶ「一恕の会」を主宰〔PHOTO〕村上庄吾

取材・文/稲泉連

塀のなかで悟った論語
著者:田中森一
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―〝闇社会の守護神〟と呼ばれた半生を描いた『反転』を出版されたのが2007年。「ヤメ検弁護士」の田中さんが石橋産業事件で有罪判決を受けたのは、その翌年のことでしたね。『塀のなかで悟った論語』は再逮捕後の約3年間の獄中生活のなかで、胃ガンとの闘病を続けながら執筆されたとのことですが、なぜ論語について書かれたのでしょうか。

 振り返ると、論語との出会いは中学3年生のときでした。担任の福田という国語教師に、やさしい解説書をもらってね。人間の生き方を説いた論語に触れて、大切な宝物を探し当てたような気持ちにさえなった。以来、傍らに置き続けてきた教えなんです。

 孔子の言葉を日々紐解くことで、自分の考え方の核となる部分や強い信念を形づくってきた、という思いがある。特捜におったときも自分の考えと法が衝突すれば、ギリギリの局面では論語の教えに従ってきたし、それで組織から出ることになっても後悔はなかった。

薬の副作用と闘いながら書いた

 ところが、石橋産業事件で逮捕されたことは、ワシにとってその信念が揺らぐほどの衝撃やった。まさか逮捕されるとは思ってなかったから、判決を受けたときは地獄のどん底に落とされた気分。人は極限状態に陥ると「血のションベン」が出るとよういうけど、初めてそれを経験しましたよ。

 胃ガンの疑いがあると医師に言われたのは、そうして服役している最中のことでね。医師というても相手は刑務官や。誰にも相談できん。ただただ獄中で孤独と痛みに耐えるしかない。「あれだけ信念が強かったのに、オマエはなんや、情けない」と自問ばかりしとった。