EU機能不全の原因は経済格差ではない!? 免許証を再発行して再確認したドイツ人の驚異的なメンタリティー

2013年05月17日(金) 川口マーン惠美
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 法律は何より重視され、ドライバーは深夜、町中で自分一人しか車に乗っていないとわかっていても信号を守る。もちろん、シートベルトも必ずする。とにかく、法律は全員が守る。ただ、法律になっていない事がら、つまり、行列の割り込みなどは横行している。秩序を保つためのモチベーションは、必ずしもモラルとイコールではないということだ。

 有名なジョークに、「地獄とは、イギリス人がコックを、フランス人が機械工を、ドイツ人が警官を務める国で、スイス人の恋人を持つこと」というのがある。そういえば、スイスは確かに酷い。私の経験から言えば、ドイツ人より秩序を愛しているのはスイス人ぐらいだ。しかも、ドイツはまだ笑い話になるが、スイスはもうならない。恋人にするにも、警官にするにもふさわしくない。スイスにだけは住みたくないと、ドイツ人が思っているぐらいだ。

ドイツでは「お役所仕事」は褒め言葉?

 話が逸れたが、役所の女性はパソコンを一瞥し、私には前科もなく、30余年に亘りこの国で模範的に生きてきたことを確認すると、紙を一枚くれた。「これは仮の免許証で、ドイツ国内は走れますが、EUの他の国では無効です。2週間後には正式な免許証が届きますので、外国での運転はそれを待ってください」ということで、確かに2週間後、郵便受けに免許証が入っていた。ドイツで「お役所仕事」というと、おそらく褒め言葉になるだろう。

 ドイツはコンピューターができる前から秩序の国だった。ナチの第三帝国が崩壊した後、その犯罪の全容があっけなく明るみに出たのは、彼らがあまりにもちゃんと記録を残していたからだ。処刑した人数も、略奪した美術品の数も、とにかくすべてが記録されていた。

 1989年、ベルリンで東西ドイツの壁が崩れ始めたとき、東ドイツの人々は秘密警察の建物を襲撃して、そこにあった書類を破棄し始めた。もっとも、彼らはまもなく、これは証拠になると思いつき、破棄は止めた。そのため、秘密警察シュタージが自国民をスパイにして集めさせた自国民についての膨大な密告資料は、ほとんどが無傷で残った。

 統一後2年経った1992年、シュタージの記録の公開が始まった。申し込みをすれば、自分に関するシュタージの記録を閲覧することができたのだ。密告人の名前は暗号名になっているが、それが誰だか特定したい場合は、本名の開示を要求することができた。認められないのは、書類の破棄や内容の削除の要求であった。

 以来、200万人以上の元東独人がこの記録を閲覧した。無二の親友だと思っていた人間、あるいは家族が、自分について密告していたことを知り、取り返しのつかないほどの精神的打撃を受けるという悲劇が多く起こった。自殺者まで出た。

 しかし、私が何よりも凄いと思うのは、これほどの膨大な資料を、瞬く間にちゃんと閲覧可能な状態に整える能力である。これは、一朝一夕では絶対にできない。一番最初から、これに携わったあらゆる人間が、すべての書類を整然とファイルし、きちんと保管し、いつでも取り出せるように管理してきたからに他ならない。コンピューターなどない時代から、おそらくドイツ人は、必要なものは瞬時に取り出せたのだと思う。

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