「講座: ビジネスに役立つ世界経済」
【第4回】 ~米国経済はすでに出口に向かっているのか?~

〔PHOTO〕gettyimages

 前回、「ユーロの日本化」の可能性について筆者の考えを述べた。そこでは、ユーロ圏のデフレリスクの高まりからユーロ高となり、しかも、ECB(欧州中央銀行)はユーロ圏の金融機関の破綻は是が非でも回避する姿勢をとると考えられることから、ユーロ圏の国債利回りも低下してくるのではないかと述べた。そして、この筆者のシナリオ実現の可能性を握るのがフランスではないかと指摘し、今週はフランス経済の行方について考える予定であった。

 しかし、筆者にとって、最近、米国でやや気になる状況が2つ起きている。一つ目は、マーケットでの「出口論」の台頭であり、2つ目はインフレ率の低下である。そこで、今回はテーマを米国経済の「出口論」に変更し、フランス経済の話はペンディングとさせていただきたい。

 結論を先にいえば、筆者は、FRBは出口政策を急ぐべきではないし、FRBが年末頃までに出口政策を実施する可能性はほとんどないと考える。さらにいえば、十分に失業率が低下し、低い失業率で安定化しない中での出口政策の実施は、米国経済に再びデフレ懸念をもたらすことになると考えている。ここでの「安定的に低い失業率」はFRBの政策目標である6.5%程度ではないかと考えている(米国の4月時点の完全失業率は7.5%)。

米国経済の出口は遠い

 ところで、「出口政策」の必要性を主張するエコノミストら(一部連銀総裁を含む)は、FRBによる「過剰流動性」の供給が、株式市場に「バブル」的な現象をもたらしつつあること、及び、それを放置すれば、行き過ぎた資産効果によってインフレ率が急騰する懸念を示している。

 だが、この認識は冷静な経済分析というより、市場の「感情」、もしくは「イメージ」が先行した誤った考え方ではないかと---筆者は逆に、このような議論の台頭と普及が現在の米国経済の最大のリスクではないかと---危惧する。

 直近時点(2013年3月)の米国のコアCPI前年比上昇率は+1.9%である。それまでの推移をみると、2012年3月から5月にかけての同+2.3%からやや低下したものの、8月以降はほぼ+2%前後で安定している。現在、FRBのインフレ目標の中心値は+2.0%であるので、現状のインフレ率は、インフレ目標にほぼ等しく、物価動向は安定していると判断される。

 一方、FRBのもう一つの政策目標(FRBは「Dual Mandate」といって2つの政策目標を有している)である完全失業率の目標値は6.5%であるが、前述のように4月時点の完全失業率は7.5%と目標から1%ポイントの開きがある。完全失業率のピークは2009年10月の10.0%だったことを考えると、ここまで3年半で2.5%失業率は低下したことになる。

 完全失業率の推移をみると、ピークから現時点までの改善ペースはほぼ一定であるので、このままのペースで完全失業率の低下が進んでいくと仮定すると、FRBの目標値である6.5%に到達するのはここから約1年半後の2014年10月頃になると予想される。ただ、完全失業率が目標値の6.5%に到達した瞬間にFRBは政策目標を達成したことにはならない点にも注意が必要である。

 FRBの政策目標はあくまでも「雇用環境の安定」であるので、半年程度は完全失業率が目標値である6.5%前後で安定的に推移するのを見届けてからでないと政策変更はできない。とすれば、出口政策の実施は早くとも2015年半ばくらいにしか実現しないと考えてよいのではないか。

 さらに、重要な点は、米国経済のマクロ経済上の需給ギャップの存在である。米国の潜在成長率については、ITブームの際に上昇したか否かという問題も含め、様々な議論があるが、保守的に見積もっても2.5%以上はあると考えられる。リーマンショック後(2008年10-12月期以降)、米国の実質GDP成長率を四半期別にみると、前期比年率換算ベースで2.5%以上の成長率を記録したのは18回中4回しかない。

 ところで、需給ギャップは(潜在GDPの水準―現実の実質GDP)× 潜在GDP × 100(%)で計算されるが、需給ギャップが縮小していくためには、実際の実質GDP成長率が潜在GDP成長率を連続して上回らなければならない。したがって、現在の米国では、マクロ経済上の需給ギャップが現在でも拡大している可能性が高い。米国経済が「正常化」するためには、このマクロの需給ギャップをゼロ近辺にまで改善させないといけない。

 完全失業率が6.5%に到達した段階では、マクロの需給ギャップもある程度は改善傾向で推移していると思われるが、これがゼロ近辺に到達するのは、完全失業率が6.5%に到達してから少なくともあと2年はかかるのではないか。そうすると、筆者の考える「出口政策を実施すべき」タイミングは2017年頃となる。すなわち、米国経済の出口は遠いのではないかというのが筆者の考えである。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら