雑誌
連続追及 第10弾PCなりすまし事件
特別対談佐藤博史×江川紹子
警察と検察 史上最悪の「冤罪捜査」を問う

 マスコミにリークする情報も底をついたか。もはや捜査当局に決定的証拠がないことは明らかだ。それでも拘束し続ける警察・検察の思惑とは—。冤罪に詳しいジャーナリストが主任弁護人に訊く。

何が何でも有罪にする

江川 2月10日の片山祐輔氏(30歳)の逮捕から、すでに80日近く経過しました。最近の片山氏の様子はいかがですか?

佐藤 この対談の直前にも会ってきましたが、「一日も早く自由になりたい」と言っています。一時は不眠に悩まされ、自殺も考えるほどでした。保護室に隔離されたこともありましたが、だいぶ落ち着いてきました。彼の誕生日が5月10日なので、それまでには保釈が認められるようにしたいと考えているところです。

江川 検察はさらに別件で追起訴をする用意があるようで、捜査も続行中です。すぐに保釈されることは考えにくいと思います。

 そもそも、この事件では警察が4件の誤認逮捕で大失態をして威信を傷つけられた。何が何でも片山氏を真犯人として有罪にするのだという強い意志を感じますね。

佐藤 4月17日の進行協議の場で検察官が発言したことなのですが、検察官としては、この件については捜査継続中であり追起訴を予定しているので、公判前整理手続きに付すことの可否について意見を言えないし、証拠開示もしない、という答えでした。その理由は「証拠隠滅のおそれ」があるというのです。すでに起訴した事件で、捜査継続を理由に証拠の開示を断るなんて、前代未聞です。

江川 それは、検察側が「これが決定打」というほどの証拠を持っていないからではないでしょうか。もちろん、押収したパソコン関係のデータにどのようなものがあるのかまだわかりません。遠隔操作ウイルスをつくったとされるプログラム言語「C#」について、片山氏は自分がその言語を使えないから犯人ではないと主張していますが、検察側は使えるという証言をぶつけてくるでしょう。

 ただ、最高裁の判例で状況証拠だけで有罪とするためには、その人が犯人でなければ説明がつかないものが含まれていなければならないと言っている。つまり、片山氏が「C#」を使えると立証できても、真犯人が片山氏以外にあり得ないという証明にはならない。片山氏が犯人でないと説明がつかないような客観証拠を彼らが持っているのか、大いに疑問です。

佐藤 私は、警察・検察は片山さんを逮捕・起訴する明白な証拠は持っていないと思います。

江川 私が釈然としないのは、取り調べの録音・録画を片山氏が求めても、警察が一切応じようとしないということです。検察に対しては、録画はせずに録音だけでも取り調べに応じると譲歩しているんですよね。

佐藤 ええ。それで検察も当初は冷静に取り調べをするような素振りで、録音も検討した様子があるんです。その後、態度を豹変させましたが。

江川 取り調べは、自白を得ることだけが目的ではなくて、被疑者から多くの情報を引き出すことが大事です。否認していたとしても、片山氏が犯人だと確信しているのであれば、事実についての説明をさせて、客観的事実との矛盾点を集めていけばいい。そうしないのは、捜査機関としての役割を放棄しているとしか思えないんですよね。おそらく、警察と検察は、自白を得ることが取り調べだと思い込んでいるのではないでしょうか。

 この事件は4件の誤認逮捕があって、うち2件は「虚偽の自白」をもとに誤認逮捕してしまっている。その過ちを前提に、片山氏の捜査では強引に自白に追い込むようなことはせず、公明正大な手続きを経ることが捜査側には求められています。裁判所もそれを後押しするような役割が期待されている。にもかかわらず、そういう意識が見られないことが問題です。

佐藤 (痴漢冤罪をテーマにした映画を撮った)周防正行監督も言っていましたが、今の検察や警察の取り調べ手法は、容疑者を自白に追い込むことにおいては適合しているが、無実の人を間違って自白させる危険を常に伴っている。もし、われわれ弁護人がいなければ、片山さんは屈服させられていたかもしれない。

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