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「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実【後編】
一手も悪手を指さなかった三浦八段は、なぜ敗れたのか

文/山岸浩史
終局直後、記者の質問に答える三浦八段

 その後、今回の全5局に出場した棋士とソフト開発者が一同に集まっての記者会見が行われた。「将棋はアニメ、政治と並ぶニコニコ動画の三大コンテンツ」というドワンゴ社の川上量生会長は、その場で、第3回電王戦の開催へ強い意欲を示した。5局合計の来場者数は約190万人にも上ったという。

 まだ戦いのさなかにいるような顔をしている三浦を除く4人の棋士には、どこか吹っ切れたような高揚感があった。将棋史上初の冒険に臨んだ彼らが共有しているのは、この戦いによって自分は一歩前に進むことができたという思いではないだろうか。

 ある記者から、「戦ってみて、コンピュータにはない人間の強みを何か感じたか」というややひねった質問があったとき、船江はこう答えた。

 「負けたことを生かせれば、それが人間の強みだと思います」

 昨夜メールをくれた友人の息子さんには、この言葉を教えてあげようと思った。第2回電王戦は、コンピュータ側の3勝1敗1分けで幕を閉じた。

三浦が事前に想定していた「最悪の場合の勝算」

 数日、躊躇した末に電話をしてみると、意外にも三浦は快く取材に応じてくれた。その声を聞いて、思ったよりも気持ちの整理はついているように感じた。

---あの勝負について、いまどのようなことが残っていますか?

 何からどう聞けばいいのか、こちらのほうが整理できていないまま尋ねると、三浦は驚くほど明晰な口調で答えた。

 「まず冷静に敗因を分析しなくてはいけませんから、あれから自分とGPSの指し手を改めて精査しました。そして棋士たちにも意見を求めました。少なくとも5人くらいに聞きました

 その結果、得られた「結論」を三浦は明かしてくれた。

〈GPSの仕掛けには驚きましたが、困ったという感覚はありませんでした。これならこちらがよくなる(有利になる)はずだ、よくなる手を探さなくては、と思いました。

 しかし、思った以上にその具体的な手段が見つかりませんでした。6五歩ではたいしてよくならない。もしよくなったとしてもわずかなリードであって、それで勝てるような甘い相手ではない。

 より実戦的に勝ちやすさを求めるなら、7六銀だろうと思いました。意見は分かれるところでしょうが、同意する棋士は結構いました。

 しかし7六銀のあとも、局面は思ったほどよくならない。それで相手の玉を攻めるのはあきらめ、攻撃陣を押さえ込みに行ったのですが、結果的には攻めつぶされてしまったわけです。

 そのときも最初は、違和感がある攻めだったので、「ありがたい」と感じました。ところが読んでいるうちに、攻めがつながることがわかり、驚きました。