賢者の知恵
2013年05月15日(水)

「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実【後編】
一手も悪手を指さなかった三浦八段は、なぜ敗れたのか

文/山岸浩史

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【前編】はこちらをご覧ください。

チャンスを得た三浦、リードを狙う

 先制攻撃をかけることを、将棋用語で「仕掛ける」という。電王戦第5局は序盤戦を得意の展開に持ち込んだ三浦弘行八段が、いつ、どう仕掛けるかに注目が集まっていた。

 だが、先に仕掛けたのはGPS将棋のほうだった。

 「変な手、来たね・・・」

 控え室で戦況を見守る棋士たちから、戸惑いの声が上がる。それは、見るからに違和感がある仕掛けだった。プロでなくても将棋を熱心に学んだことがある者なら、このような仕掛けはうまく行かないと直観的に捨ててしまう類の手順だ。

 終盤戦での、玉が詰むかどうかという読みでは、人間はすでにコンピュータの敵ではない。目的が明確なときの演算能力こそコンピュータの最大の強みだ。

 しかし、まだ目的が漠然としていて読みを絞れない序盤から中盤にかけては、人間にアドバンテージがあるとされている。経験によって培われた直観、すなわち大局観が、考え方の方向を教えてくれるからだ。大局観を持つのが難しいコンピュータは、序・中盤ではしばしば人間から見ると「とんちんかん」な手を指してしまう。

 すべての手を「完璧」に指す以外に勝機はない、と悲壮な覚悟を固めている三浦に、チャンスが訪れていた。

 GPSを相手に「0対0」のスコアのまま終盤戦に入るのはたまらなくつらい。だが、この「変な仕掛け」の欠陥を的確に突いて局面をリードすることができれば、「先行逃げ切り」というビジョンが見えてくる。三浦は慎重に時間をかけ、先取点を上げるための方策を練り始めた。

 三浦が長考に入ると、控え室の棋士たちも駒を動かしながら検討を始めた。どうすればこの仕掛けに「無理攻め」の烙印を押すことができるか。誰の目にも直観的に「ひと目」で浮かぶ手があった。6五歩。

 それで三浦が有利になるはずと思われたが、実際に駒を進めて確認するうちに、話は簡単ではないことがわかってきた。

【訂正】本稿の前編に訂正があります。詳しくはこちら(前編1ページ目の下)をご覧ください。
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