「息子と僕のアスペルガー物語」 ライフ
奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第27回】
「まっすぐ家に帰る」ことができず、泣き叫んだ少女

【第26回】はこちらをご覧ください。

3時間もしゃがみ込んで、道端の花を見ている

 ASD(自閉症スペクトラム障害)を抱える息子の「他人から言われたことを、そのまま言葉通り、語義通りに受け取ってしまう」という特徴。これによって、他の多くの人なら何とも思わないような他人の言葉に、息子はあれこれ悩んだり、傷ついたり、突飛な行動に出たりすることが、今までにもよくあった。

 息子以外にも、似たようなケースはよくあるらしい。たとえば、しばらく前に知り合いになった、小学生の娘さん(名前をMちゃんとしておこう)がASDだというご夫婦から、こんな話を聞いた。

 Mちゃんは下校する途中、道端で見かけた草花や虫に興味を覚えると、そこにしゃがみ込んでじっと観察を始める。場合によっては、1時間も2時間も"固まった"まま、動かなくなることも珍しくないという。

 「動きのある虫や動物ならともかく、まったく動かない植物を延々と見ていて何が面白いのか、さっぱりわからないんです」

 とMちゃんのお母さんは首をひねる。とにかく、その癖のため、Mちゃんは予定時刻から1時間も2時間も過ぎても帰宅してこない、ということがときどきあった。

 あまり遅くなると、ご両親は当然、「何か事故にでも遭ったのではないか」「事件に巻き込まれたのではないか」などと心配でたまらなくなる。あるときなど、お母さんがたまりかねて学校へ電話し、「娘がまだ帰ってこないんですが、クラブ活動とか放課後の作業などがあったのでしょうか?」と問い合わせたところ、「今日は授業が終わってすぐ下校したはずです」という返事が返ってきて、大いに驚き、焦ったという。

 慌てふためいたお母さんは、近所に住むMちゃんの何人かの同級生の家に電話を掛けて、「下校するとき、うちのMを見なかった?」と聞いた。しかし、全員が「見ていない」と答えた。

 時刻は午後6時半を過ぎ、不安がピークに達したお母さんが「いよいよ警察に連絡した方がいいか」と考え始めたところ、Mちゃんは「ただいま」と言いながらひょっこり帰ってきた。お母さんはへたり込みながら、「遅いわよ。心配したじゃないの! いったい何してたの?」と聞くと、Mちゃんは「お花を見ていた」と答えた。

 どうやら、道路の脇に咲いていた花に興味を惹かれ、3時間以上もじっと見ていたらしい。そこは表通りから少し入り込んだ路地だったので、同級生を含めて、知り合いは誰も、しゃがみ込んだMちゃんの姿を見ていなかった。