中国
北京の街で感じた習近平前後の変化---ギラギラしたバブルの夢から醒めた中国国民の不満が向かう先は?
〔PHOTO〕gettyimages

 一切報道されていないが、北京の情報筋によると、5月9日夕刻、北京市の南三環路と南苑路が交差する木木犀園橋近くで、1万人規模のデモ行進が行われた。政府当局は、武装警察車両50台とヘリコプター、それに公安のパトカー25台を繰り出して鎮圧するというものものしさで、まさに首都で大規模なテロでも起こったかのようである。

 北京でこのような大規模なデモが発生したのは、昨年9月の反日デモ以来だが、純粋な中国政府への抗議という意味では、1989年6月の天安門事件以来ではないか。

安徽省出身者は死んでもよいというのか!

 事の発端は、南苑路にある大型市場「京温服装市場」に勤める袁利亜という22歳の女性が死亡した事件だった。5月8日に地元警察が発表した概要は、以下の通りだ。

〈 5月3日早朝5時ごろ、市場の地下駐車場入口付近で女性が死んでいると、警察に通報があった。市場に設置してあったビデオには、夜一人で入る袁利亜の姿が確認された。深夜には市場に人気はなく、遺体に争った形跡もないため、飛び降り自殺と断定した。 〉

 ところがこの死亡事件、ネットで大騒ぎになった。

 袁利亜の故郷である安徽省廬江県からは、多数の親族が北京に駆けつけ、警察に抗議する模様が写真でアップされた。また、袁利亜の同僚だという女性が、「袁利亜は東北出身の6人の市場の保安員に深夜に輪姦された後、殺された」と証言。袁利亜の彼氏も、「2日当日の昼に、今日も元気に出勤してますというショートメールをもらっていて、飛び降り自殺するはずがない」と証言。一般市民たちは、次のように怒りを露わにしたのだった。

・公安はなぜ事実を公開しない? 中国に人権はあるのか?
・幹部だけがぬくぬくとやってればいいというのか。
・北京で差別されている安徽省出身者は死んでもよいというのか!

 ところが、こうした多数の声は、たちまちネット警察によってかき消されてしまった。

 5月9日、対照的な二つの報道が出た。一つは中国共産党機関紙『人民日報』で、以下の通り。

〈 5月1日に、政府情報公開条例が施行されて5年が経った。政府は公平正義を貫いており、国民の支持も得ている。北京市の公安当局は、19年前に起こった未解決事件、清華大学の女子大生・朱令さん死亡事件の捜査を、いまだに根気よく行っているほどである。 〉

 もう一つは、死亡した袁利亜の故郷の『安徽商報』。

〈 本紙記者が、袁利亜の実家を訪れたが、まさに赤貧洗うが如しという貧困地区にある。唯一の家財と言えるのは冷蔵庫だけ。父親は病気で寝込んでいる。親族によると、袁利亜は北京から毎月、母親に仕送りを欠かさず、とても自殺するような女の子ではなかったという。 〉

 警察当局は、「馬という28歳の女性を拘束した。馬はネット上で、自分が袁利亜の同僚というウソの設定でウソの書き込みをしたことを深く反省している」と発表し、火消しに躍起になっている。

 だが、状況証拠から推定しても、袁利亜は明らかに、深夜に警備員たちに輪姦されたあげく、殺されたと見るのが自然だろう。「数人の警備員が逮捕された」というネット情報も流れたが、これもネット警察によってすぐに削除された。

 こうした市民の怒りが、1万人規模のデモに発展したのである。袁利亜の死亡事件は、単なる発端に過ぎず、市民たちの普段からの不満が爆発したのである。

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