『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』 ~第1章「世界を変えるビッグデータ」より一部抜粋~

2013年05月10日(金)
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 このシステムを運用するには、膨大なデータが必要になる。そこでエツィオーニは、予測精度を高めるため、旅行業界向けフライト予約データベース会社に触手を伸ばした。この情報があれば、米国民間航空の全路線、全フライト、全座席について1年を通じて予測可能になる。これでフェアキャストは2000億件近い運賃情報を基に航空券価格を予測できるようになった。おかげで、消費者にとっては大きな節約につながる。

 一方、航空業界にしてみれば、何百万ドルもの儲けをふいにしたことになる。薄茶色の髪に屈託のない笑顔の無邪気そうな男。そんなエツィオーニの風貌を見ていると、この男がそんな大それたことをやってのけたとは、とても思えない。しかし、エツィオーニはさらに大きな勝負に打って出る。2008年ごろから、ホテルやコンサートチケット、中古車などにもこの手法を利用しようと考え始めた。要は、差別化要素がほとんどない商品で、価格変動が激しく、膨大なデータがあるものなら何でも応用が利くのだ。

 ところが、こうした計画を練っていた矢先、マイクロソフトから買収の打診があった。マイクロソフトは1億1000万ドル(約105億円)でフェアキャストの経営権を取得し、同社の検索エンジン「Bing」に組み込んだのである。2012年には、75%の確率で正確に予測できるようになり、チケット1枚当たりの節約可能額は約50ドルに上った。

 フェアキャストはビッグデータ系企業の典型で、今後、世界中の企業がめざしている姿の一例でもある。

 5年前あるいは10年前ならこういう会社は生み出せなかった。「たぶん不可能だったと思う」と本人も認める。当時は必要なコンピュータの処理能力やデータ保存スペースを確保しようにも、あまりにコストがかかりすぎたのだ。その後、不可能が可能になったのはテクノロジーの進歩が大きいが、実は、その陰でもっと重要な変化も起こっていた。しかも簡単に見分けのつかない微妙な現象である。それはデータ利用に関する意識の変化だ。

 昔は、データは何の代わり映えもしない陳腐な存在と考えられていた。例えば航空機の到着(グーグルなら検索処理の終了)と同時にそれまで集めたデータはゴミ同然というのが常識だった。

 ところがその常識は崩れ去った。データはビジネスの素材に生まれ変わり、重要な経済資源として、新たな経済価値の創出に活用されることになった。実際、こうした正しい意識を持って臨めば、データを上手に再利用することでイノベーションや新サービスの基盤に変えることもできる。謙虚な姿勢、意欲、そして情報収集のツールがあれば、そこに隠されていた意味が浮かび上がってくるのである。

「ビッグデータ」とは何か

 情報社会の成果は一目瞭然だ。誰もが携帯電話を身に付け、デスクにはパソコン、会社の管理部門では巨大なITシステムが稼働している。ただ、情報そのものはあまり注目されていない。

 世の中にコンピュータが本格的に入ってきてから50年。データの蓄積が進み、これまででは考えられなかったようなことがいつ起こっても不思議ではない状況にある。かつて世界がこれほどの情報洪水に見舞われたことはないし、その情報量も日増しに拡大する一方だ。規模の変化は状態の変化につながる。そして、量的な変化は質的な変化をもたらす。

 天文学やゲノム科学のような研究領域では、2000年代半ばに初の情報爆発を経験、「ビッグデータ」という言葉が生まれた。このコンセプトが今、人間の活動のあらゆる分野に広がり始めたのだ。

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