佐藤優 インテリジェンス・レポート
「4月の日露両首脳会談成功に水をさす、安倍首相側近のマスコミへの情報リーク」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.013より
〔PHOTO〕gettyimages
【目次】
―第1部― インテリジェンス・レポート
 ■分析メモ(No.29)「日露首脳会談に対する評価」
 ■分析メモ(No.30)「イスラームをめぐる猪瀬直樹・東京都知事の発言」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート(No.33)『宗教について 宗教を侮蔑する教養人のための講話』
 ■読書ノート(No.34)「中華世界 その求心力と遠心力」
 ■読書ノート(No.35)『涙と花札――韓流と日流のあいだで』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 佐藤優さんの今後の予定(6月上旬まで)

分析メモ No.29 「日露首脳会談に対する評価」

【重要ポイント】
◎日露首脳会談によって、安倍晋三首相とプーチン大統領の個人的信頼関係が構築されたので成功した。北方領土問題の解決には首脳間の決断が不可欠であるので、今回の首脳会談で安倍・プーチンの信頼関係が構築されたことにより、今後、平和条約(北方領土)交渉が再開される。

◎日本側から不用意なリークが続いている状況に鑑み、日露両国政府間で「マスメディアを通じた外交は行わない。お互いの国内向け発言については反応しない」という明示的合意をしておく必要がある

【事実関係】
4月28~30日、安倍晋三首相がロシアを公式訪問し、29日、クレムリン宮殿でプーチン大統領と会談した。

【コメント】
1.
今回の日露首脳会談は成功した。まさに安倍首相主導で、日本側が今回の首脳会談を「信頼醸成サミット」と位置づけ、外務省の斎木昭隆外務審議官、上月豊久欧州局長らの専門家が、首相の意向を実現するために全力を尽くしたことが成功につながった。

2.―(1)
4月29日の共同記者会見で、安倍首相は、訪問の目的について、「1.日露関係の将来的可能性を示すこと。2.平和条約交渉(北方領土交渉)の再スタート。3.プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」と述べたが、いずれの目標も達成された。特に、重要なのは、3.の「プーチン大統領との個人的信頼関係の構築」である。なぜなら、プーチン大統領の政治決断なくして、北方領土問題の解決は不可能だからだ。

2.―(2)
今回の首脳会談は、全体で3時間20分の長時間になったが、そのうち、冒頭の2時間10分は少人数会談で、ここで安倍首相とプーチン大統領の信頼関係が構築された。共同会見で、安倍首相が「プーチン大統領との間で今回、平和条約交渉をふくめて幅広い問題について胸襟を開いて、じっくり話し合い、個人的信頼関係が生まれたと実感している」と述べたときに、隣席のプーチン大統領が深くうなずいた。この映像を通じて、日露両首脳間に信頼関係が確立されたことが広くロシア国民と国際社会に対しても可視化された。

・・・(略)

4.―(1)
日露首脳会談自体は成功したが、その後の、安倍首相側近の立ち居振る舞いには深刻な問題がある。

匿名の同行筋による不正確なリークにより、両首脳の信頼関係に亀裂が生じる危険があった。同行筋を情報源とする、首脳会談でプーチン大統領が領土問題の解決策として面積を二等分する方式に言及したことが複数の新聞で報じられた。

ロシアのプーチン大統領が29日の安倍晋三首相との会談で、北方領土問題に関連し、過去に他国との領土問題で係争地の面積を等分する方式を採用した経緯に言及していたことが分かった。首相同行筋が明らかにした。中国との国境やノルウェーとの大陸棚の境界の画定に適用した例を説明したという。>(4月30日『日本経済新聞』夕刊)

各紙もこの報道に追随した。5月1日『朝日新聞』朝刊は、

ロシアのプーチン大統領が4月29日の安倍晋三首相との会談で、領土問題の解決策として面積を半々に分け合う2等分方式に言及した。プーチン氏が切り出したという。首相はロシア側が北方領土交渉にも適用するのか見極める構えだ。日本政府関係者が明らかにした。

と報じた。さらに、この記事は、

プーチン氏は首脳会談で中国やノルウェーの事例について「面積を半分ずつにした」と説明。そのうえで「両事例は第2次大戦に起因するものではないという点で、難しい話ではなかった」とも指摘し、北方領土問題とは違いがあるとの認識を示したという。>と報じている。

4.―(2)
領土問題のような、双方の国民感情を刺激する問題については、・・・(略)

5.
4.―(1) の匿名の同行筋とは別の首相側近からも、実名で奇妙なシグナルが出され、クレムリン(露大統領府)で波紋を呼んでいる。露国営ラジオ「ロシアの声」が4月29日にこんな放送をした。

内閣官房参与本田悦朗氏は「インターファクス」のインタビューに答え、ロシアとの領土問題について考えを示した。/ 本田氏によれば、

・・・・・・(以下略)

分析メモ No.30 「イスラームをめぐる猪瀬直樹・東京都知事の発言」

【重要ポイント】
◎イスラームを侮辱する猪瀬直樹・東京都知事の発言は、偏見に基づくものである。東京でのテロを誘発しかねない危険な発言をしたにもかかわら、真摯な反省ができない。猪瀬氏は、今後も、日本の国家益と国民益の双方を毀損する言動を続けるものと見られる。

【事実関係】
4月27日、米紙ニューヨーク・タイムズが、猪瀬直樹・東京都知事が「イスラム諸国が共有しているのはアラー(神)だけで、お互いにけんかばかりしている。そして、階級がある」と発言した旨報じた。

【コメント】

3.―(3)
猪瀬氏は、東京都知事という地方政治家であるのみならず、大宅壮一ノンフィクション賞の選考委員をつとめる著名な作家だ。実態はともかく、国際基準では知識人とみなされる。政治家の失言は、無知による場合と、偏見による場合に分かれるが、知識人である猪瀬氏の発言は、客観的に見てイスラームに対する偏見に基づくものだ。イスラームを侮辱する猪瀬氏の発言は、ネットによって国際的に拡散している。ツイッターを表現の場として最大限に活用している猪瀬氏は、ネットの力を熟知しているはずだ。客観的に見て、猪瀬氏は自らの発言がイスラーム過激派に与える影響について、十分に自覚しているとは言えない。

3.―(4)
猪瀬氏の発言や行動が、外交的なトラブルを引き起こしたのは、これが初めてではない。猪瀬氏は尖閣諸島をめぐっても、船たまりをつくる、公務員を上陸させるなど、ハンドリングを誤れば日中武力衝突を引き起こしかねない提言をした。猪瀬氏には、自らの発言が日本国家と日本国民にどのような悪影響を与えるかを想像する能力が欠如している。こういう人が、東京都知事にとどまっていると、再び同種のトラブルを引き起こす。・・・・・・