ネガティブな批判だけでなくポジティブで役に立つアイディアを共有する「ソルーション・ジャーナリズム」

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 先日イギリスで開催された「スコール・ワールド・フォーラム」に参加して以来、とても注目しているテーマのひとつに「ソルーション・ジャーナリズム」という考え方があります。現在、日本語で検索してもあまり該当する記述はないものの、今後のデジタル時代のメディアのあり方にとって、とても大切な視点だと思ったので、今回はその概要をお伝えしたいと思います。

 「ソルーション・ジャーナリズム」とは、日本語でいえば「問題解決型の」ジャーナリズムという意味になります。犯罪、汚職、自然災害など、社会に氾濫するネガティブな出来事に関するニュースや調査報道を通じて、問題やその規模の大きさを伝えることの大切さを十分に踏まえつつも、その問題を解決する具体的なアイディアやその秘訣を伝えることの方に重きを置いたジャーナリズムのあり方を指します。

 ソルーション・ジャーナリズムを推進するためのネットワーク組織「ソルーション・ジャーナリズム・ネットワーク」により2013年2月に作成された分かりやすいアニメーション動画解説があります。まずはぜひ一度ご覧ください。

 「ソルーション・ジャーナリズム・ネットワーク」の共同設立者で「ニューヨークタイムズ」で「Fix」というタイトルの人気コラムを共同執筆しているデービッド・ボーンステイン氏は、たとえ話としてこう言います。

 「小さな子供に気が滅入るような社会の問題ばかりが掲載されたニュースを毎朝見せていたら、大人になった時に『社会はきっとよくなる』と思えるようになるのは難しいのではないか」

 ボーンステイン氏はまた講演などでいつもこう語ります。

 「ビジネス・ジャーナリズムの世界では『ソルーション・ジャーナリズム』は頻繁に活かされています。成功した起業家やビジネスの事例にはスポットライトが当たり、『いかに企業経営の問題解決をするか』『いかにイノベーションを起こすか』などの特集が頻繁に取り上げられます。なぜなら、ビジネス雑誌の読者はそのような情報を求めているからです」

 2010年にウェブメディアとしてピュリッツァー賞を初受賞し、一躍有名になった調査報道NPO「プロパブリカ」に代表されるような、権力を監視する「ウォッチドッグ・ジャーナリズム」や「調査報道」を重視する試みももちろん重要であり、今後、発展が期待される分野であることは間違いありません。

 ただ、今まで十分にスポットライトが当たってない試みとしてのソルーション・ジャーナリズムは、一般市民の参加も巻き込みながら、個人、企業、政府、NGO、社会起業家など様々な立場や地域ですでに機能している事例が共有されることで、よい意味でのフィードバックの循環が行われ、社会の課題解決に寄与する可能性が非常に大きい分野ではないかと私は考えます。

 具体的な例としてぜひ紹介したいのが、1997年1月に「ニューヨークタイムズ」の記者であるニコラス・クリストフ氏が寄稿したコラムです。「Malaria Makes a Comeback, And Is More Deadly Than Ever」と題する記事で、マラリアにより当時毎年100~300万人もの途上国に住む人々の命が奪われていたという事実が報じられていた一方、安価でシンプルな解決策も提示されていて、リソースさえあれば解決しうる問題である、という記事内容でした。

 当時マイクロソフトのCEO だったビル・ゲイツ氏はこの記事を読んで大いに影響を受け、その後、同社CEOの職を辞し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立、今日では年間8億ドルもの寄付を国際的公共衛生分野に投じるきっかけになったと言われています。クリストフ氏の記事は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のオフィスに、額に入れて掲げられているということです。

日本でのソルーション・ジャーナリズムの可能性

 特に決まった呼び方はなくても、従来の日本のメディアの中でも、読者が刺激を受け、ヒントを得るような記事は数多くあります。また、最近では「ポジ出し」という言葉も若い世代を中心に使われることが増えています。非難やあら探しなど「ダメ出し」が幅を利かせる議論はやめ、皆でポジティブかつ前向きな改善策に知恵を絞り、行動しようとする発想に注目が集まっているのです。

 新しいメデイアのあり方が模索されている今日、今後こうしたポジティブな考え方が広がっていくことを私は期待しています。その際、日本でもいずれ転用可能な、海外の先端的なアイディアを含む記事の紹介、あるいは日本独自の方法で地域の課題を解決している記事の他言語での紹介など、国境を超えた「ソルーション・ジャーナリズム」の可能性はますます大きくなるでしょう。

 最後に、先に触れたデービッド・ボーンステイン氏が「ソルーション・ジャーナリズム」について語っている講演動画を紹介します。ぜひご覧ください。

本記事に関するご意見、ご質問、フィードバック等は筆者のFacebookページまでお願いいたします。ツイッターは@socialcompanyです。

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このたび、2010年から寄稿していた「ソーシャルビジネス最前線」の内容に大幅に加筆修正を施して、先日、以下の書籍を出版させて頂きました。ぜひ書店などで手に取って頂けたら幸いです。

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