[プロレス]
近藤隆夫「人気回復への大きなヒント」

スポーツコミュニケーションズ

観る者に届く「熱」を

 かつて、あるプロレスラーが、私にこんな風に言ったことがある。
「楽しみながら、明るくやりたいんですよ。やっている自分が楽しくなきゃ、お客さんにも楽しさが伝わらないでしょ」

 これは違うと思った。楽しんでいる人間は熱を生むことなどできない。必死になって、自分が壊れそうになるほどに苦しみ、緊張して何かと闘う時にのみ、熱は生じるのだ。

 繰り返すが、プロレスはいまも、30年前も肉体演劇である。そこに違いはない。だが、30年前、プロレスラーたちは対戦相手ではなく世間と闘っていた。

 あらかじめ勝敗を決めていることをひた隠し、たとえ虚構であってもプロレスというジャンルを構築し続けることに必死だったのだ。そこには緊張感があり、それが熱として観る者に届いていた。

 そんな話を黙って聞いていた友人は私に言った。
「そうだね。でも、もう時代が違うんだよ」

 そうかもしれない。でも緊張感は、どんな時代にも生じるはずだ。肉体がカッコよければ、それで良いというものではない。技が派手ならば、それでいいわけでもない。面白ければ、いいはずもない。そんなものは観ても5分で忘れる。

 だが、緊張感はヒトの中に熱として残る。プロレス人気回復のヒントが、そこに隠されているように思う。

近藤隆夫(こんどう・たかお)プロフィール>
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌を はじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自 転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイ シー一族の真実~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』 (汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)