[プロレス]
近藤隆夫「人気回復への大きなヒント」

スポーツコミュニケーションズ

緊張感漂う昔の選手入場

 もちろん、プロレスは当時から、あらかじめ勝敗を決めた上で行われる肉体演劇だった。それを知ったいま、昔の映像を見ても何も感じないだろうと私は思っていた。子供の頃、夢中になったドラマを改めて見ると、「なぜ、こんなのに……」と思うことがある。それと同じ気分になるのだろうと。

 だが、そうではなかった。CSの『テレ朝チャンネル』では、「ワールドプロレスリングクラシックス」という番組が放映されている。過去の新日本プロレスの試合が、音声も当時のままに画面に映し出される。若き日のアントニオ猪木、坂口征二らが躍動するのだ。

 この番組をもう何度も見た。そのたびに引き込まれるのである。リアルファイトではないことはわかっている。それでも引き込まれていくのだ。

 懐かしさもあるのだろう。だが、それだけではないことに気づく。画面の向こうに映る会場から「熱」が伝わってくるのだ。この熱は明らかに、いまのプロレス会場にはないものである。私も熱の正体をハッキリと言葉にできるわけではないが、ひとつは選手の入場シーンに緊張感が漂うことが影響しているように思う。

 最近は選手の入場には花道としての舞台が用意される。だが、以前は、そんなものはなかった。選手は押し寄せる観客の間をぬってリングに進むのだ。

 紅い闘魂ジャージに身を包んだ若手選手のガードを受け、ファンにもみくちゃにされながら猪木が鋭い眼光を放ってリングに向かう。スタン・ハンセンはロープを、ブルーザー・ブロディはチェーンを振りまわして客を蹴散らしながらリングに近づいていく。

 客はテレビに映ることを知っていてピースサインをしたり、自分の名前を書いた画用紙を掲げて笑っている。だが、そんな彼らを制止する若手選手たちの表情は真剣そのものだ。隙や心のゆるみが感じられない。ゆえにリングの周囲には常にピリピリとした緊張感が漂っていたのである。それが「熱」として観る者に伝わったのではないか。