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「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実 【前編】
対局3日前、「棋界の武蔵」三浦八段が漏らした本音

文/山岸浩史

人間には思いも寄らない異様な一手

 将棋界というところに、一般の世界とは違う閉鎖的な面があることは否定できない。だが、将棋界の人たちは、おおむね「外界」からの訪問者には親切だ。

 控え室に押し寄せている報道陣の中には、将棋の知識がまったくない人も多く、かなり「斬新」な質問をしてくる記者もいたが、棋士たちはそのひとつひとつに意を尽くして答えていた。この業界を何とか盛り上げてほしい、というのは彼らの共通の願いなのだ。今回の電王戦に出場した5人の「戦う動機」も、言ってしまえばそこにしかないのではないかと思う。

 控え室のモニターに、この対局の大盤解説会が催されている「六本木ニコファーレ」の場内が映し出された。客席の最前列に若い女性が何人も座っているのが見える。これまでの将棋ファンとはまるで違うこの客層こそ、出場した棋士たちが流した血の確かな代償と言えるだろう。

 その大盤解説会で、屋敷伸之九段の聞き手役を務める矢内理絵子女流四段が、特別対局室にいるもう1人の「三浦」について話題にした。対局者の三浦八段の前に座り、GPSが選択した手を盤上に指す「模擬対局者」役を務める三浦孝介初段、まだプロをめざして修行中の奨励会員だ。今回の電王戦で全局、この仕事をまかされている三浦初段を、矢内はこう賞賛した。

 「三浦初段は全局を通じて、一度も正座を崩していないんですよ」

 ところが、屋敷九段がすかさず言う。

 「それは当然です。もし正座を崩したりして、師匠に見つかったら大変ですよ」

 機械ならぬ生身の人間は、こうした「修行」によって、正確な読みと揺れない心を手に入れるのかもしれないな、と思った。そしてふと、将棋で「人間がコンピュータに負けちゃいけない」のは、彼らの技術の陰にこうした苦しみがあることを、誰もが感じ取っているからではないかとも思った。だから負けちゃいけない。というより、負けてほしくないのだ、と。

 その「模擬対局者」三浦初段の手が舞い、盤上にGPSの指し手「△7五歩」が指された。これまで不気味なほど淡々と三浦八段に追随していたGPSが、突如として戦端を開いたのだ。それは、人間には思いもよらない異様な一手だった。

後編に続く〉