『対中戦略 無益な戦争を回避するために』(近藤大介著)
~第1章より「毛沢東を敬愛する『新しい皇帝様』」他抜粋~

尖閣問題の真相を知り、中国の野望と弱点を具体的に分析すれば日本が採るべき「対中戦略」が見えてくる! 中国の野望とは? 弱点は? --- 「日本一、中国を知る男」がすべてを明らかにする!

船橋洋一氏絶賛!!
「徹底した現地取材と鋭い洞察。日中関係出直しに必読の書だ!」

孫崎享氏激賞!!
「中国の弱点を暴き、習近平の中国と渡り合う道を提言する意欲作」

【第1章「仕掛けられた反日デモ」他】はこちらをご覧ください。

毛沢東を敬愛する「新しい皇帝様」

 中国中央テレビが「アメリカ人は夜更かしし、ヨーロッパ人は早起きして、世界中が注視している」ともったいをつけた、この時の習近平新総書記の20分に及ぶ初演説は、一言で言えば、毛沢東がマルクスのもとから這い出てきたような復古調だった。

 その1週間前、第18回中国共産党大会が開幕した11月8日に、胡錦濤総書記が5年間の政治報告を行った。その時、胡錦濤は「改革」という言葉を80回も連発した。

 ところが、この日の習近平のデビュー演説には、わずか一回しか出てこなかった。代わりに、短い演説の中で「人民」という言葉を18回も連発した。「為人民服務」(人民に奉仕する)、「中国的人民是偉大的人民」(中国人民は偉大な人民である)といった調子だ。つまり、鄧小平が始めた「改革開放」をスッ飛ばして、「毛沢東語録」の世界に先祖返りしているのである。

 中でも、非常に印象的だったのは、以下のような言葉だった。

 近代以降、わが民族は艱難辛苦を経験し、中華民族は最も危ない時期に至った。その時以来、中華民族の偉大な復興のため、無数の仁徳者や志士たちが奮起し抗争を起こしたが、失敗の連続だった。だが中国共産党成立後、団結して人民の前途後継と頑強なる奮闘を導き、貧窮し落伍した旧い中国を、日進月歩で繁栄と富強に至る新中国へと変えた。

『対中戦略 無益な戦争を回避するために』
著者=近藤大介
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 つまり、偉大なのは改革開放を唱えた鄧小平ではなくて、革命を起こした毛沢東だったと述べているわけである。また、中国共産党のアイデンティティは、抗日戦争にこそあると強調している。「中華民族到了最危険的時候」(中華民族は最も危ない時期に至った)という文言は、「義勇軍行進曲」(中国国歌)からの引用で、実際、習近平はこの一節を口にした時、わざと歌うような口調で述べた。

 義勇軍行進曲は、1935年に作られた抗日映画『風雲児女』の主題歌で、「あの抗日の時代を思い出せ!」と国民を鼓舞するメタファーだったわけだ。ちなみに国歌はその後、「誰もが最後の吼声を叫ぶのだ、起ち上がれ! 起ち上がれ! 起ち上がれ!」と続く。

 私はこの時、習近平新総書記の「就任演説」を聞いていて、一日本人記者として、思わず身震いしてしまった。そしてその姿が、尖閣諸島を巡る反日攻勢と重なって見えた。日中関係は困難な時代を迎えたということだ。