『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ 翻訳:渡会 圭子
第2章 習慣を生み出す「力」 74~96ページより抜粋

第2章 習慣を生み出す「力」
――ファブリーズが突然大ヒットした理由

習慣化ののち生まれたパターン

 ケンブリッジ大学神経科学科のヴォルフラム・シュルツ教授の研究室は、お世辞にもきれいとは言えない。同僚に言わせれば、彼のデスクは書類が永遠に吸い込まれてしまうブラックホール、あるいは有機体の育つシャーレであり、何年も手つかずのまま、増殖し放題だった。もし自分の服から、たばこやネコの毛のにおいがしても、彼は気づかない。もしくは気にしないだろう。

 しかしシュルツが20年以上にわたって行ってきた実験は、きっかけと報酬と習慣がどう影響しあっているかという理解に大変革をもたらした。彼はある種のきっかけと報酬が、なぜ他のきっかけや報酬よりも強力なのかを説明し、なぜペプソデントはヒットしたのか、なぜある種の人たちは素早く食事や運動の習慣を変えられたのか、最終的に何がファブリーズを買わせたのかを明らかにする、科学的ロードマップを提供したのだった。

 1980年代、シュルツはサルの脳を研究する科学者のグループに加わっていた。レバーを引いたり、留め金を開けたりといった一定の作業を覚えられるサルだ。グループの研究の目的は、脳のどの部分が新しい行動を引き起こすのか、突き止めることだった。

「ある日、このことに気づいて、がぜん興味を惹かれましてね」シュルツが私に言った。彼はドイツ生まれで、英語を話すときにはアーノルド・シュワルツェネッガーのようなドイツ訛りになる。「サルを観察していると、りんごジュースが好きなサルもいれば、ぶどうジュースが好きなサルもいて、疑問に思い始めたのです。このサルの小さな頭の中では何が起きているのだろう。違う報酬はそれぞれ脳にどんな影響を与えるのだろう、とね」

『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ
翻訳:渡会 圭子
⇒本を購入する(AMAZON)

 シュルツは神経化学的なレベルで報酬がどう作用するのかを解明するため、一連の実験を始めた。技術の進歩に伴い、1990年代には、MITの研究者が使っているのと同等の装置を使えるようになった。しかしシュルツはネズミよりもサルに興味を抱いた。たとえばジュリオという、黄色がかった薄茶色の目を持つ3・5キロのアカゲザルは脳にごく細い電極が差し込まれていて、神経活動を観察できるようになっていた。

 ある日、シュルツは薄暗い部屋でジュリオを椅子に座らせ、コンピュータのモニターをつけた。ジュリオの仕事はモニターに色つきの模様(小さな黄の渦巻き線、赤の波線、青の直線)が現れたら、レバーに触れることだ。模様が現れたときレバーに触れると、天井からぶら下がるチューブを伝って、ブラックベリー・ジュースが1滴、ジュリオの唇に落ちてくる。

 ブラックベリー・ジュースはジュリオの好物だった。