『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ 翻訳:渡会 圭子
第1章「習慣」のメカニズム 39~56ページより抜粋

第1章 「習慣」のメカニズム
――行動の4割を決めている仕組みの秘密

習慣の誕生

 一連の行動を無意識に行える慣例に変える脳のこのプロセスは、チャンキング(いくつかのものを一つのものとして記憶する)として知られている。これこそが習慣形成の基本なのだ。私たちは毎日、何十、何百という行動のチャンクに頼って生活している。その中には、歯ブラシに練り歯磨きを載せて口に入れるといった、ごく単純なものもある。着替えるとか、子供のお弁当をつくるといった行動は、それより少し複雑になる。

 習慣になってしまうのが驚異的に感じるほど複雑な行動もある。たとえば運転の初心者にとって、車をスタートさせてドライブウェーから外に出るときは、大きな集中力が必要だ。それにはもっともな理由がある。まずガレージを開けて車のロックを解き、シートを調整してキーを差し込み、それを時計回りに回し、バックミラーとサイドミラーを動かし、障害物がないかどうか確認し、ブレーキに足を載せギアをリバースに入れたらブレーキから足を離し、頭の中でガレージから道路までの距離を予測し、そのあいだにもタイヤをまっすぐに保ちながら、道路を行き交う車に目を配り、ミラーに映る像からバンパー、ごみ箱、生け垣の距離を計算し、しかもこれらすべてをアクセルやブレーキを軽く踏みながら行い、そしてたいていの場合、同乗者にラジオをいじるのはやめろと頼まなくてはならないのだ。

 しかし少し慣れれば、ほとんど何も考えず、これらすべてを行って道路へ出られるようになる。習慣化することで機械的にこなせるようになるのだ。

『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ
翻訳:渡会 圭子
⇒本を購入する(AMAZON)

 毎朝、何百万もの人々が、こうした複雑な作業を頭で考えずにこなしているのは、車のキーを取り出すとすぐに脳の基底核が働き始め、脳に保管してある習慣の中から、車をバックで道路に出すことに関わるものを見つけ出すからだ。それが習慣となり考えずにすむようになると、脳の活動が低下するか、他の思考を追うようになる。それで頭に余裕ができて、息子が弁当箱を家の中に忘れたと気づけるのだ。

 習慣が形成されるのは、脳が常に楽をしようとするからだという。脳はできるだけ介入を避け、決まった手順を何でも習慣にしてしまおうとする。そのほうが労力を節約できるからだ。この本能は大きな強みだ。効率的に働けば、脳は小さくてすむ。そして頭が小さくなって、出産が楽になる。その結果、乳児や母親の死亡が減る。また、歩く、食べ物を選ぶといった基本的な行動について、常に考えていなくても平気になる。そのため脳のエネルギーを、槍、灌漑システム、さらには飛行機やビデオゲームの発明に注ぐことができるのだ。

 しかし脳の労力を節約することには落とし穴がある。脳のパワーが低下するタイミングによっては、重大なこと、たとえば茂みに隠れている天敵や、スピードをあげて近づいてくる車などを見落とす恐れがある。そのため脳の基底核は、習慣にバトンタッチするタイミングを決める巧妙なシステムをつくりあげた。それは一連の行動が始まるとき、あるいは終わるとき必ず起こることだ。