『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ 翻訳:渡会 圭子
プロローグ 3~13ページより抜粋

プロローグ

 彼女は研究者にとって理想の患者だった。

 リサ・アレン――カルテによれば彼女は34歳。16歳で喫煙と飲酒を始め、ものごころついたころからずっと肥満に悩まされていた。20代半ばには、1万ドルの借金を抱え、取り立て業者に追いかけられるようになる。昔の履歴書を見ると、一番長く続いた仕事でも1年もっていない。

 しかし今、研究者たちの目の前にいる女性は細身で生気にあふれ、ランナーらしい引き締まった脚をしている。カルテの写真より10歳は若く見え、その部屋にいた誰よりも運動していると思われる。最新の報告書によれば、借金はなく、酒も飲まず、グラフィックデザインの会社で働き始めて39ヵ月目を迎えようとしていた。

 「最後にたばこを吸ったのはいつですか?」医師の一人が尋ねる。リサは定期的にメリーランド州ベセスダ郊外にあるこの研究所にやってきて、そのたびにいくつもの質問に答えていく。

「だいたい4年前です。そのころに比べると体重は30キロ減り、マラソンを走るようになりました」さらに彼女は大学の修士課程に入学して家も買った。4年間で大きなことをいくつも成し遂げたのだ。

『習慣の力 The Power of Habit』
著者:チャールズ・デュヒッグ
翻訳:渡会 圭子
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 その研究所の部屋には神経学者、心理学者、遺伝学者、社会学者が集まっていた。彼らは3年前から国立衛生研究所の支援を受け、リサを含めて30人近い元喫煙者、慢性的な過食者、アルコール依存症、買い物依存症などの有害な性癖を持つ患者を追跡し、調査を行った。

 このプログラムの対象となった患者には、一つの共通点があった。比較的短期間で生活の立て直しができたことだ。どうすればそんなことができるのか。研究者が知りたかったのはその理由だった。そこで患者の心拍数や血圧を測定し、家の中にビデオカメラを設置して生活を記録し、DNA配列の一部を分析し、脳の中をリアルタイムで見られる技術を使って、たばこやぜいたくな食事などの誘惑にさらされているあいだ、血液や電気インパルスがどのように流れるか観察した。彼らの目的は、「習慣」が神経学的なレベルでどのように働いているか、そしてそれを変えるには、何が必要かを確かめることだった。

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「もう何十回となく話していることだと思いますが、ここにいる人間の中には、間接的にしかあなたを知らない者もいます。どうやって禁煙したか、もう一度、お話しいただけないでしょうか」医者がリサに言った。