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研究 なぜ長野は日本一の長寿県になったのか

 昔は脳卒中の死亡率No.1/がんセンターもなし/海がないから新鮮な魚は食べられない/それなのになぜ?

 今年、厚労省が発表した平均寿命。長野県が初めて男女ともに1位に輝いた。なぜ「長寿県」になれたのか。我々が真似できることはないのか。アンチエイジングの第一人者・白澤卓二医師が伝授する。

住めば身体が活性化する

 そもそも長野県は、以前から長寿県だったわけではない。昭和40年の調査では、男性の平均寿命は68・45歳で全国9位、女性は72・81歳で26位。なかでも、当時は脳卒中の死亡率が全国1位だった。いったい、なぜ長野は寿命を延ばすことができたのか。

 この謎を解明すべく、順天堂大学大学院教授の白澤卓二医師に話を聞いた。5年ほど前から毎月長野へ通い、長寿研究を続けている白澤医師は、近著『長寿県 長野の秘密』(しなのき書房)でも、その研究成果を披露している。

「長野が長寿の県として注目されてきたのは、ここ2~3年ですが、そのきっかけは50年ほど前にさかのぼります。当時、脳卒中の死亡率がトップクラスだったのは、長野県民の塩分摂取量の多さが大きな原因でした。長野は海に面しておらず、冬が厳しいため、食物を保存するために塩辛い食べものが多かった。それが高血圧を引き起こし、脳卒中につながっていたわけです。これをなんとかするために、昭和20年に長野に赴任した若月俊一先生という医師が、『予防医学』の考え方を広めていったのです」(白澤医師/以下同)

 こうして、まずは塩分を控えるための取り組みが始まった。医師だけでなく、保健師による健康指導や、生活習慣病予防のための講座が積極的に開かれた。野沢菜や味噌汁の塩分濃度を減らすための運動が県ぐるみで行われていったのだ。

 が、長寿のためには減塩すればいい—そんな単純な話ではない。長野には、さまざまな「長寿の秘訣」が潜んでいるという。

 まず挙げられるのは、「環境」だ。長野は、日本アルプスや八ヶ岳など日本を代表する高山に囲まれており、長野にある農地はほとんどが標高300m以上に位置する。必然的に、平地よりも気圧は低くなる。それがどう影響するのか。

「細胞内にあるミトコンドリアの活性に関係してきます。ミトコンドリアは、ほとんどの生物の細胞内にある小器官ですが、酸素をつかって炭水化物などを分解し、エネルギーを生み出す重要な役割を担っています。

 気圧の低いところでは、肺の中の酸素分圧が低くなり、血液中の酸素濃度が下がる。すると、全身の細胞への酸素供給量も低下します。そうなると、ミトコンドリアは少ない酸素で効率的にエネルギーを生成しようと、活性を上げるのです。これは、陸上選手が行う高地トレーニングと同じ理論です」