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あなたの「日本語」ここが間違ってます
実は笑われていますよ 齋藤孝×井上明美

 書店に行けば学習書が平積み、テレビをつければクイズ番組。"日本語ブーム"は相も変わらず続いているけど、果たして国語力が上がったかといえば自信はない。日本語って、なんでこんなに難しいの?

言い間違えて、憮然とする

齋藤 「大人の国語力」というのが流行っていますが、分かりますね。なぜかと言うと、学校の国語教科では、社会人が使う国語を教えていないんですよ。

井上 できればみな適切な言葉を使いたいという気持ちの表れなんでしょうか。

齋藤 そうだと思います。それに、日本語関係の本にしろ、テレビ番組にしろ、ここ数年延々とやられていて、例えば役に対して実力が不足していると誤解されやすい「役不足」(能力に対して役目が軽いこと)、「失笑する」(つい笑ってしまうこと)といった言葉を誤用すると目立ってしまう時代になってきているんです。

井上 「失笑する」は平成23年度の文化庁の調査で60%が誤答したとありましたね。字だけ見ると「笑いを失う」と書くので笑いも出ないほどしらけるという様を連想してしまうんでしょうね。

齋藤 あとは語感から意味を誤解するケースもあります。「憮然とする」なんて、やっぱり「ぶ」という音が、「ブーッとしてる」というか……不機嫌そうな感じになると思うんですが、立心偏に「無」と書くように、心が無い、呆然とした状態ということなんですよね。

井上 「破天荒」(今まで誰もできなかったことを成し遂げること)なんかも、字面もそうですが音からも間違えやすいかもしれません。

齋藤 元気というか、傍若無人な印象を持ちますが、違うんですね。100年以上科挙合格者が現れなかったために「天荒」(=未開の土地)と呼ばれていた土地から、唐代についに合格者が出て、「天荒を破った」と賞賛されたという中国の故事からきているんですよね。

井上 語感ですと、私の先生(故・金田一春彦氏)も、よく清音・濁音の話をしておられましたが、濁音ではじまるものには、ドブとかゴミとかきたならしい語感のものが多いと。もちろん全部そうとは限らないでしょうけれども、語感から意味を誤ってしまうこともあるのでしょう。

齋藤 こういった間違いはテレビなんかでも言いっ放しになっていたりして、「悪貨は良貨を駆逐する」ではないですが、意味が正しい正しくないというよりは言葉の勢力とでもいうもので広まっていますね。

井上 「役不足」なんか、「力不足」と一字違いですから「正しいのかな」なんてつい思ってしまいそうです。