現代新書

海部美知「ビッグデータ文明論」最終回 第三次産業革命は終わったのか?

メルマガ「現代新書カフェ」より

人類の新しい叡智の源泉

 2013年正月早々、アメリカ議会図書館は、国内のツイッター上の公開ツイートをアーカイブ化し、すべて閲覧できるようにする計画を発表しました。06年の創業以来、これまでのツイートというと、その数1700億本、データ量にして133テラバイトだそうです。「おなかすいた」などのアホなつぶやきから私を叩く罵倒コメントまで、メタデータ(発信時間、発信者アカウントなど、それぞれのツイートの属性データ)も含めて、全部ワシントンの議会図書館に収蔵されてしまったわけです。

 ここまで読んでこられた読者は、「そんなもん何に使うの」という質問はもうなさらないでしょう。このアーカイブは、チリ・パチョン山の天文観測写真や、CERN大型加速器の吐き出すデータと同じ意味を持っているのです。このアーカイブは、人の目でいちいち読むのではなく、世界に散らばる天文学者や物理学者たちのように、開発者や研究者が各種のソフトウェア・ツールで料理して使います。何にどうやって使うかは、使う人の頭脳の見せどころです。膨大なゴミ屋敷ではあるのですが、世界中の多くの研究者たちがそれぞれに工夫して分散処理作業を行い、そのゴミわらの山から針を探し出し、その針で社会問題を解決したり、今までわからなかった事実を掘り出したり、新しいセオリーを導き出したりするのです。

 ビッグデータを使ったオープン型研究の手法は、これまで無機的データを使った科学技術の分野に限られていましたが、これからは有機的データも社会科学においても、使えるようになります。アーカイブ計画当事者たちも、実際どのように使うのかまだわからないと言っていますが、世界各地の研究者や開発者たちは、この公開を待ち構えていました。アホツイートの山も、使いようによっては世界を良くするための人類の叡智の源泉になりうるのですね。

世の中が大きく動く前触れ

 2012年秋、ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授による「アメリカの経済成長はもう終わったのか?」という論文が話題になりました。このなかで同氏は、歴史上の産業革命について、それぞれ第一次(蒸気機関と鉄道)、第二次(電気、内燃機関、上水道、薬品・化学など)、第三次(デジタル技術、コンピューター、インターネット)の影響を比較しています。歴史的な一人あたりGDP成長率のモデルを用いると、このうち第二次が空前絶後の影響力を持っており、その効力による成長が終わった1950年代以降、先進国では坂道を転げ落ちるように、成長力が低下していることが悲しいほど歴然とわかります。

 第三次は、90年代に一時的に、成長率低下傾向をスローダウンさせる効果がありましたが、その効力も2000年代にはもう消滅してしまいました。90年代の「デジタル・夢の時代」は私も体験しましたが、パソコン、家電製品、通信などがすべてデジタルに切り替わったことによる大きな変化でした。しかし、世の中がアナログからデジタルにバタッと裏返ってしまったらそれで終わりです。ゴードン氏のセオリーにおいても、例えば、自動車の登場、上水道の導入などの変化はすべて、このバタッと裏返る「一度きり」で「不可逆」な変化であることを述べています。