10周年を迎える「スコール・ワールド・フォーラム」で感じたディスラプション(破壊)とグローバルトレンド

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スコール・ワールド・フォーラムの会場に張られたポスター(同会議の10年間のハイライト動画より)

 世界中から約1000人もの社会起業家、社会イノベーションに関わる専門家が集う「スコール・ワールド・フォーラム」(4月10日~4月12日 /イギリス、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール)が今年で10周年を迎え先日開催され、私も参加する機会を得ました。今年で4回目の参加となり、昨年一昨年とレポートしてきましたが、今年もその概要や、私自身が興味を持ったテーマについて報告したいと思います。

 「スコール・ワールド・フォーラム」で語られるテーマは、世界中の貧困問題や経済開発、水や食糧の安全保障、教育、途上国における女性のエンパワーメント、紛争解決と平和構築、インパクト投資など、多岐にわたります。参加者は欧米を中心に、アフリカや南米、インド、バングラディシュなどで活躍する社会起業家、投資家、財団関係者、メディア、政府・国際機関関係者などから構成されています。

 会議で語られる内容の多くは普段、馴染みがないテーマかもしれませんが、世界の大きな動きを俯瞰して、社会を少しでもよい場所にしようと最先端で活躍している方々との出会いは大きな刺激です。5年後、10年後の未来を垣間見ることができるような、そんな場所であると感じます。

 まずは冒頭の開会セレモニーで上映されたショートムービーを紹介します。 「Dare to Imagine」と題した8分間の動画で、「50年後の世界がどのようなものになっているか」という問いに対し、様々な分野のイノベーターが答える内容となっています。

 「ハフィントン・ポスト」創業者のアリアナ・ハフィントン氏や、発展途上国の小規模事業向け融資サービスを提供する「Kiva」プレジデントのPremal Shah氏らと共にMITメディア・ラボ所長の伊藤穣一氏らが登場し、今までのやり方を破壊(Disrupt)しつつ、インターネットでネットワークされた知恵やアイディアを活かし、問題解決のために協業していくことの必要性を指摘しています。

教育のあり方を革新する「カーン・アカデミー」が「スコール・アワード」を受賞

 スコール・ワールド・フォーラムでは毎年、卓越した活躍をしている社会起業家に対し、「スコール・アワード」を贈呈しています。過去12年間にわたって、80団体、97名の社会起業家に対し、合計3億4,200万ドルもの支援が行われていますが、その中には日本でも知られている「Teach for America(ティーチ・フォー・アメリカ)」「kiva (キヴァ)」「Room to Read(ルーム・トゥ・リード)」なども含まれています。

 今年も教育、ヘルスケア、平和構築分野で活躍している6団体が受賞しましたが、その中でも注目を集めていたのは、インターネットを活用した新しい教育イノベーションを推進している「カーン・アカデミー」であり、その創業者であるサルマン・カーン氏でした。

 カーン・アカデミー(Khan Academy)とは、数学、科学、物理学、そして歴史、経済学などを中心に、現在4000本を超える無料のユーチューブ動画コンテンツを提供する米国の非営利団体です。ビデオをクリックすると、画面上で、創業者サルマン・カーン氏の生の声によるわかりやすい授業が始まり、図や無料オンライン動画で世界中の誰もが学ぶことを可能にする手書きの文字、チャートを駆使しながら、小学校から高校レベルまでのありとあらゆる内容に関して解説が行われます。

 コンピュータの前で講義を受ける子供たちは、まるで先生が自分の隣に座って解説してくれているかのような親近感を持ち、好奇心もそそる10分程度の短い講義から、様々な分野を体系立って学べる、というしくみです。

教育をテーマにしたパネルディスカッションに登壇するサルマン・カーン氏

 創業者のカーン氏はMITで数学と電子工学・コンピュータ・サイエンスの修士号を、そしてハーバードビジネススクールでMBAを取得した秀才で、卒業後はヘッジファンドでアナリストとして勤務していた経験があります。

 2004年の暮れ、遠く離れた故郷にいるいとこに数学をオンライン上のツールを活用して教えたところ、「対面で教えるよりもわかりやすい」と好評だったので、その内容をオンライン動画共有サイトユーチューブに公開しました。すると、今まで会ったことがない数多くの人からも高い評価を得ました。カーン氏はその後、ヘッジファンドの仕事を辞め、2006年9月から事業として専念することを決意し、「カーン・アカデミー」を創業したという経緯を持っています。

 今日、カーン・アカデミーは毎月530万人が受講し、ユーチューブ動画の再生回数は合計で2億5000回を超え、グーグルやフェイスブックなどベンチャー企業出身者や元経営コンサルタントといった優秀なスタッフが次々に参画し、スタッフの数も40名の規模に成長しています。

 カジュアルな格好でパネルディスカッションに登場したカーン氏は、一見するとごく普通の人という印象でしたが、話し出すと、聡明で早口な口調でこう語りました。

 「僕がやっていることは別に新しいことではなくて、誰でもできることなのです。また、もしビル・ゲイツ氏が新しいオンライン教育にイノベーションを起こすべく事前に寄付や助成金を提供していたら、今のような形になっていなかったかもしれません。

 プロの教師や、グラフィックデザイナー、ナレーターなどを雇い、堅苦しい内容のものになっていたかもしれない。私は講義の最中に咳もするし、後ろで電話が鳴ることもあるくらいです(笑)。でも、『生身の人間が教えている』と感じてもらえる点が評価されているようです」

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