読書人の雑誌『本』
『からだの中の外界 腸のふしぎ』著:上野川修一
からだの中にある「もう一つのいのち」

「腸の時代」がやって来ている。

 世界中の科学者がいま、腸の謎に満ちた働きや、そこに棲息する細菌たちに熱い眼差しを注いでいるのだ。

 腸が、食物を分解・吸収し、私たちのからだに必要な細胞やエネルギーを生み出す器官であることはよく知られているとおりである。「食」を「いのち」に変えるこの働きだけでも大仕事だが、実は腸には、さらに多様で重要な役割があることが、続々と明らかにされてきているのだ。

 たとえば、腸には神経細胞(ニューロン)が一億個も存在する。神経系の総元締めである脳を除けば、これほどたくさんのニューロンを擁しているのは脊髄と腸だけだ。しかも、中枢神経である脳の管理下から離れ、腸の働きのためだけに特化した独立部隊である。

「いまは他のことにエネルギーを使いたいから、消化活動を止めておこう」

 もしあなたがそう考えたとしても、腸が休んでくれることはない。あなたの意思=脳の指令にはお構いなしに、粛々と、そして黙々と自らの務めを果たしていく。実際、脳とつながる神経を切断しても、腸は何事もなかったかのように消化・吸収を続ける。完全に自立=自律した臓器なのだ。

 腸はさらに、人体最大の免疫器官でもある。私たちが一年間に食べる食物は、一人あたり約一トンにも及ぶ。大量の物質が通過する腸には、大切な栄養分とともに、否応なく無数の病原菌やウイルスが侵入してくる。食中毒菌や腸管出血性大腸菌・O–157などがその代表例だ。

 これら強力な外敵に対抗するため、腸管には全身を警護する免疫細胞の過半数が集中し、かつ、独自の免疫組織を備えている。実は、眼や口、呼吸器など、外界と接する各器官に派遣される免疫部隊は、腸管で養成されているのである。

「いのちをつくり、そして守る」---攻守にわたる腸の幅広い働きは、解明が一歩進むごとに、私たちの健康維持・増進に直結する。生命科学のホットなテーマとなっている所以だ。

 ところで腸には、他の臓器にはない際立った特徴がある。

 
◆ 内容紹介
最大の免疫器官にして第二のゲノム格納庫!進化をきわめた「おどろきの臓器」は、実は「体外」だった! 年間1トンもの食べ物を消化・吸収し、たえず病原菌にもさらされる「内なる外」=腸。眼や口、呼吸器にまで目を光らせる最強の免疫器官であり、独自の遺伝子をもつ「腸内細菌」との共進化の場でもある。1億個ものニューロンを擁し、「第二の脳」とも呼ばれる驚異の「腸」能力とは?