読書人の雑誌『本』
『秘録 核スクープの裏側』著:太田昌克
「特ダネに奇策なし」

 米中央情報局(CIA)が扱う大半の情報は公開情報だ。ヒューミント(スパイ活動などヒューマン・インテリジェンス)で得られる情報はわずかにすぎない---。

 二〇〇三~〇七年のワシントン特派員時代に何度かインタビューする機会のあった元CIA高官のマイケル・ショイヤー氏が私にこう指摘し、公開情報の重要性を強調していたのをよく覚えている。

 ショイヤー氏は一九八二年にCIA入りし、九六年から九九年まで国際テロ組織アルカイダを率いたウサマ・ビン・ラディンの動向を追跡する特別ユニットのトップを務めた。今から一〇年前に開戦したイラク戦争の直前には、フセイン政権下のイラクとアルカイダの「協力関係」を調べるよう、当時のテネット長官から命じられ、大量の公開情報を含む過去一〇年分の計七万ページ近い関係文書を精査したが、結果は「シロ」だった。

 しかしブッシュ政権はフセインとアルカイダの「邪悪な結合」を強調、「イラクはアルカイダに化学、生物兵器の訓練をしている」(パウエル国務長官が二〇〇三年二月五日に国連で行った説明)と主張して開戦に突き進んだ経緯がある。ショイヤー氏はこうしたブッシュ政権の外交姿勢やテロ対策に疑念と懸念を抱き、二〇〇四年一一月に政権を去った。

 屈指のテロ専門家であり、インテリジェンスのプロ中のプロであるショイヤー氏が示唆したように、真実を追い求める者に決して近道はない。書籍や新聞、雑誌、インターネット情報、政府や企業、非政府組織(NGO)の出すプレスリリース・・・・・・。巷間にあふれる膨大な公開情報を収集・分析のふるいにかけ、抽出したごく一部の重要公開情報を丹念に精査・検証することによって初めて、物事の真相がおぼろげながらに見えてくる。

 新聞記者を始めて二〇年以上が経過したが、あらためてこう実感する。「特ダネに奇策はない」と。誰でもアクセスできるオープンソースから得られる情報を地道に検索・収集し、その価値を見抜く洞察力を養う弛まぬ不断の学習と鍛錬があってこそ、われわれジャーナリストは真実に近づくことができるのだ。

 一般大衆が関心を抱く著名人、あるいは秘密交渉の内幕を知る政治家や外交官などならいざ知らず、私のようなほとんど無名のジャーナリストが自著に『秘録』というタイトルを銘打つのは恐縮の極みであると同時に面映ゆく、心の中に今なお抵抗感が残る。

 それでも「核スクープの裏側」との副題まで付して本書を出版した理由の一つは他でもない。「特ダネに奇策なし」とのメッセージを、若い後輩ジャーナリストやジャーナリストを志す若者たち、さらに東京電力福島第一原発事故以降、マスコミへの不信を募らせる多くの方に伝えたかったからだ。

 
◆ 内容紹介
唯一の被爆国にして堕ちた原発大国、日本。「核なき世界」を標榜するオバマ大統領率いるアメリカ。日米核密約を暴き政策変更をもたらしたスクープ記者が克明に描く、「核」をめぐる日米の歪んだ政策決定空間。「絶対悪」を「必要悪」とする「核の抵抗勢力」とは誰なのか?歴史的証言の全真相と政策決定プロセスの裏面を初めて明かす。