現代新書
国民の生活費負担の増加を小さく抑えながら、インフレ目標を達成する方法がある
『日本の景気は賃金が決める』刊行記念 吉本佳生氏特別寄稿

メディアを賑わすアベノミクス。年率2%の消費者物価上昇を目標に金融緩和政策をおこなうというその方針に関心が集まっています。しかし、消費者物価を2%上昇させるにはどうすればよいのか、具体的な試算などは、これまでほとんど取り上げられていません。エコノミストの吉本佳生氏が、消費者物価のカラクリからインフレ目標達成の「裏技」まで明かします。

一部の国民に相当なダメージを与える危険性

 筆者は、景気刺激のためのインフレ目標政策に批判的な立場ですが、他方で、年2%の消費者物価上昇率は十分に達成できると考えています。だから、ハイパーインフレの心配もしていません。また、本稿で指摘する内容について、筆者は2ヵ月以上前から気がついていましたが、すぐに誰かが気がついて指摘してしまうだろうと予想していました(予想が外れたため、本稿がここに掲載されました)。このタイミングで発表するのは、主に2013年1月後半から2月前半にかけて執筆した自著の発行直前まで待っていたからです。

 そもそも、消費者物価指数が上昇するためには、指数にふくまれている個々のモノやサービスの価格が上がることが必要です。そして、個々の価格はバラバラに動きます。これらの原則をきちんと意識すれば、日本銀行が設定している年2%のインフレ目標が本当に達成できるかどうかなどを論じるには、その前に、消費者物価指数にふくまれる各項目のデータを細かくチェックしないとダメだとわかるはずです。

 ある学校の生徒たちの成績を平均的に高めるには、個々の生徒の成績をチェックして、それぞれの成績が本当に上げられるかを考える必要があるのと同じことです。筆者はデータを調べることが大好きで、以前からときどき、消費者物価指数の各項目のデータをチェックしていました。今回も、拙著『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)の執筆をしている期間中、毎日のように、細かく消費者物価指数のデータを読んでいました。

吉本佳生(よしもと・よしお) 1963年、三重県生まれ。エコノミスト・著述家・関西大学会計専門職大学院特任教授。専門は金融経済論、生活経済学、国際金融論。NHK教育・総合テレビで21回(再放送をふくめると50回以上)放送された、経済学教育番組「出社が楽しい経済学」の出演・監修者。著書に、『金融工学の悪魔』(日本評論社)、『金融広告を読め』(光文社新書)、『スタバではグランデを買え!』(ダイヤモンド社)、『確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり』(講談社ブルーバックス)、『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)、『無料ビジネスの時代』『高校生からの経済データ入門』(以上、ちくま新書)、『「世界金融危機」のカラクリ』『数字のカラクリを見抜け!』(以上、PHPビジネス新書)、『むしろ暴落しそうな金融商品を買え!』(幻冬舎新書)などがある。

 そして、いまの日本の消費者物価指数が年2%上昇するには、具体的にどの項目がどの程度上昇することが必要なのかを、何度もシミュレーションしてみました。過去の実績を参考にすると、エネルギー価格の急騰が主導するパターンや、教育関係費の大幅な値上がりが主導するパターンが考えられますが、これらは日本国民の生活費負担を増やします。雪国などに住み、エネルギー消費が多い世帯や、複数の子供を育てている世帯には、かなり大きなダメージを与えそうです。

 消費者物価指数は、日本の平均的な世帯の消費生活を前提に計算したものでありながら、他方で、ほとんどの世帯はそれと異なる消費生活をしています。多くの日本人が、日本人の平均身長・体重とは異なる体形をしているのと同じことです。そのため、日本全体で年2%の消費者物価上昇率が達成されたとき、個々の世帯の生活費負担がどれだけ増えるかは、かなりのバラツキがあることが自然です。灯油などのエネルギー価格が急騰しやすいことや、デフレ下でも教育関係費はどんどん値上がりしてきた実績を考えると、平均で年2%の物価上昇しか起きていないときに、雪国で複数の子育てをしている世帯にとっての物価上昇率が年10%を超えていてもおかしくないのです。

 景気刺激のためのインフレ目標政策は、一部の国民に相当な生活費負担の増加を強いる危険性があります。それゆえに筆者は、インフレ目標政策をひとつの柱とするアベノミクス(安倍政権の経済政策)を好きになれません。しかし、金融緩和と公共事業拡大そのものには賛成しており、現実的な修正を少し加えれば、安倍政権が日本の景気回復に成功する可能性はあると考えています。その内容については拙著をお読みいただくとして、本稿では、年2%の消費者物価上昇率がどうしたら達成できるかに絞って、解説します。

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