ブルーバックス
『進化しすぎた脳』
中高生と語る[大脳生理学]の最前線
池谷裕二=著

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あなたの人生も変わるかもしれない?

 『記憶力を強くする』で鮮烈デビューした著者が大脳生理学の最先端の知識を駆使して、記憶のメカニズムから、意識の問題まで中高生を相手に縦横無尽に語り尽くす。「私自身が高校生の頃にこんな講義を受けていたら、きっと人生が変わっていたのではないか?」と、著者自らが語る珠玉の名講義。最新の脳科学の研究成果を紹介する追加講義を新たに収録!

はじめに

 脳の研究をさらに究めようと意を決してアメリカに渡ったのは2002年12月。私を迎えてくれたニューヨークの街はクリスマスイルミネーションで美しく飾り立てられていました。1年余り前に起こった同時多発テロの衝撃もようやく和らぎ、道行く人々に活気が戻り始めた、そんな時期でした。

「ニューヨークの高校生を相手に脳の講義をしてみてはどうですか」という打診を受けたのは、ちょうどその頃だったと思います。高校生にわかりやすく脳について解説する――「高校生」という対象年齢がとても絶妙な選択だとその時直感しました。好奇心が旺盛で、さまざまな問題意識が芽生える時期。これからの人生の進路を真剣に考え始める時期。そんな多感期の高校生と、私の専門である〈脳〉についてディスカッションすることは、彼らにとっても、また私自身にとっても刺激になるだろうと思い、前向きに返事をしました。

 講義では単なる教科書的な脳の解説にとどまらず、最新の知見をふんだんに取り入れ、できるかぎり新鮮な情報を伝えるように心がけました。どんな情報でもそうですが、最新情報というものは、まだ真偽が確定していない内容を含んでいるものです。こうした危険性を知りつつも、ここでは自分の個性を活かし、私にしかできない独創的な講義をすることに努めました。

 本書の一部では、私の専門分野である大脳生理学のフィールドから大幅に踏み出して、心理学や哲学の世界にまで到達しています。「心とは何か、心はどこから生まれるか」といった人類普遍の難題のみならず、「そもそも心が存在する意味は何なのか」といった疑問にまで踏み込んでみました。また、薬学部に所属している私の責務として、アルツハイマー病の話題を中心に「薬」の啓蒙にも時間を割きました。

 とりわけ「意識」の解釈や定義については、脳科学者の間でさえも共通のコンセンサスはなく、形式的に語るのが難しい対象となっています。しかし、ここでも敢えて私は誤解を恐れずに、自分なりの意見を述べました。

 そもそも脳科学がまだ脳を十分に理解できていないのは仕方のないことだと私は思っています。脳はそんなに単純なものではありません。しかし、ここには次元の異なる問題もあるようです。〈池谷裕二〉という人間が果たして脳科学という学問をきちんと理解しているか――という疑問です。「高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない」とは物理学者ファインマンの言葉です。この意味で、今回の一連の脳科学講義は私にとって試金石でした。脳科学者の端くれである私が本当に脳科学を理解しているかどうか、その判断は読者に委ねたいと思います。

目次
第1章 人間は脳の力を使いこなせていない
第2章 人間は脳の解釈から逃れられない
第3章 人間はあいまいな記憶しかもてない
第4章 人間は進化のプロセスを進化させる
第5章 僕たちはなぜ脳科学を研究するのか

著者 池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授。脳研究者。科学技術振興機構さきがけ研究員。神経生理学やシステム薬理学で海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづける。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学士院学術奨励賞などを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)などがある。
『進化しすぎた脳』
中高生と語る[大脳生理学]の最前線

著者:池谷裕二

発行年月日:2007/01/20
ページ数:397
シリーズ通巻番号:B1538

定価(税込):1,050円 ⇒本を購入する(Amazon)


 
(前書きおよび著者情報は2013年1月20日現在のものです)