金融緩和は論評不能。合理的に人間が行動することが前提の施策では、アベノミクスはうまくいかない
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol011 文化放送「くにまるジャパン」発言録より
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.011 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.25 「休戦協定『全面白紙化』によって、北朝鮮は何を狙っているのか」
 ■分析メモ No.26 「国連武器輸出条約の採択」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.25 『「資本論」を読む』講談社学術文庫 2006 年
 ■読書ノート No.26 『陸軍登戸研究所の青春』講談社文庫、200 4年
 ■読書ノート No.27 「アベノミクスが浮き彫りにする『近代経済学の限界』」
 ■読書ノート No.28 『戦後沖縄と米軍基地 「受容」と「拒絶」のはざまで 1945~1972年』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 佐藤さんの今後の予定(5月末まで)

深読みジャパン

邦丸: この時間までに入った気になるニュース、今日のトップニュースは、「日銀の黒田総裁 キーワードは2倍2倍」ということで、紹介しましょう。

伊藤: 日銀の黒田総裁は昨日、金融政策決定会合の後で記者会見し、世の中に出回るお金の総額を2年で倍増させる新たな金融緩和について、「常識を超えて巨額だ」と述べました。そして物価上昇率を2%とする目標を2年で達成するため現時点で必要な措置はすべて講じたと説明しました。新たな金融緩和は、世の中に出回っているお金と全金融機関が日銀に預けているお金の総額を目標に設定し、去年の年末の時点で総額が138兆円だったのを来年の年末までには270兆円に拡大するということです。

邦丸: 金利のコントロールというより、もう市中に出回るお金の量を倍にしていくんだという。

佐藤: 金利のコントロールができないほど、金利が低くなっちゃいましたからね。

邦丸: 今度は量的緩和どころではなくて、「常識を超えて」お金をジャブジャブ……。

佐藤: 常識を超えるということは、非常識ということですからね。

邦丸: そういうことになるんじゃないですかね。

佐藤: 言葉っておもしろいですね。「常識を超える」というと、うん、なかなかすごいことをやるなということになるけれど、「非常識だ」というと、みんな眉をしかめますよね。でも同じことですよね。

邦丸: 佐藤さんはこの黒田(東彦/はるひこ)さんのおっしゃったこと、アベノミクスの一連の動きについては、どうお考えですか。

佐藤: アベノミクスがなんなのかというのは、よくわからないんですよ。いろいろなエコノミストが言っていることにしても、このアベノミクスの内容について、みんな違うことを言っている気がするから、空中戦みたいになっちゃっているんですよね。ホントにこれ、論評不能。

 私はもともと「神学」を学んでいたんだけど、神学の論争というのは、お互いに誠実にデータをつき合わせて議論するのではなく、結論が決まっているんですね。たとえば、アベノミクスはいい、アベノミクスは悪いと、そこからパッチワークでデータを入れていくんで、アベノミクスについての論評はなんだか神学論争みたいなんですよ。

 私が気になるのは、まず、主流派の経済学の勉強をしていると、基本的には国民経済で、一国の経済の中で完結するんですね。ですから貨幣の数量を増やしていけば物価が上がっていくというのは、貨幣が外国に出てしまわないという前提がある。ところが今、ヒト、モノ、カネの移動が自由になっている。そうなると、これでうまくいくのかなと心配になる。

 それから、これは主流派の人、近代経済学の人はぜんぜん言わないんですけれど、マルクス経済学の貨幣論っておもしろいんですね。貨幣というのはそれ自体に魔力があると思っちゃう。これでモノが買えるなと。だから、溜め込んでいく人が出てくる。インフレで来年2%上がりますよ、3%上がりますよと言われても、とにかく溜め込んじゃう。先行きが不安になると溜め込んじゃう。タンス預金になっちゃう。だからインフレだったら、合理的に考えればお金を使うのに、いやいや、先行きが不安だからインフレでも持っておきたいと、こういうふうになっちゃう。この可能性について考えていないのかなと、心配になるんです。

 ですから、人間の行動というのは、そういうふうに動くのかという心理学とかも含めて考えなくてはいけないから、どうも合理的に人間が動くということが前提だと、(2年間で2%の物価上昇は)むずかしいのではないか。

邦丸: われわれの給料が上がればお金を使うという前提ですよね。ところが、給料が上がってもモノを買わないという消費者行動に出ちゃった場合、黒田さんの考えというのは根底から覆っちゃうんですね。

佐藤: そうですよね。それから、円安がいいことなのかということに関して、「東京とか名古屋とか京阪神」と「沖縄、北海道」では、そうとう温度差があるんですね。要するに、公共交通機関が発達しているところと、そうでないところ。ちょっとコンビニに行くだけでも北海道だったらクルマに乗りますから、ガソリンがリッター当たり30円上がったら、家計に直結するんですね。でも、そんなに賃金は上がっていない。

 それから、これから発泡スチロールとか、ビニールとかは、値が上がってくる。さらに小麦が上がる。

邦丸: もう上がっていますよね。

佐藤: そうしたときに、100円コンビニがどうなるのかと注目しているんですよ。100円コンビニを120円コンビニにすることはなかなか難しい。となると、ポーションが小さくなると思うんです。

邦丸: モノの大きさね。

佐藤: だからアンパンが小さくなる。100円で4コ入っていたクロワッサンが3コになる。こういうふうに可視化されるんです。あれ、変わったぞと可視化されたときに、ちゃんと給料も上がっているかどうか。ここのところで気運がちょっと変わってくるんじゃないでしょうか。

 アベノミクス──名前はなんでもいいんですけど──は、成功してほしい。日本の経済がよくなってほしいと思うんだけど、円安が素晴らしいんだとか、お札を刷ればうまくいくんだとかいう感覚には、私はついていけないんですね。

 それよりもっと単純に、私は労働可視説ですから、みんながもっと一生懸命働くようになるにはどうしたらいいか、そして仕事があって働いたらちゃんと給料がくる、こういうようなところをもっと重視すべきじゃないかと思うんです。・・・・・・

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