「アベノミクスの景気回復は、公共事業頼みになる」と示唆している本『「資本論」を読む』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol011 読書ノートより

読書ノート No.25

伊藤誠 『「資本論」を読む』 講談社学術文庫 2006年

 アベノミクスをめぐる経済学者、経済評論家などの見解は、神学論争を彷彿させる。あらかじめ、アベノミクスを絶賛するか、非難するか、結論が決まっていて(多くの論者が無意識のうちに立場を決めているのであろう)、それにあわせて、主流派経済学の論議を当てはめている。アベノミクスはもとより、通貨、マネー、期待などの基本的な術語についても、論者によって意味、内容が異なっており、論理学で言うところの同一律(A=A)違反が頻発している。この種の神学論争を、信仰を共有しない者は、一定の距離をとって観察することが重要になる。

 主流派経済学(近代経済学)は、自らのイデオロギー性について無自覚だ。これに対して、宇野経済学の系譜に連なるマルクス経済学は、イデオロギーを括弧の中に入れて、論理整合性を重視した経済理論を展開しようと努力している。

 伊藤誠氏は、『資本論』のマネタリーな側面に注目し、・・・・・・(以下略)

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
経済原論』 宇野弘蔵 岩波全書 1964年
経済学 上巻』 宇野弘蔵編 角川全書 1956年
経済学 下巻』 宇野弘蔵編 角川全書 1956年

読書ノート No.26

新多昭二 『陸軍登戸研究所の青春』 講談社文庫 2004年

 人間の能力と適性には、差異がある。また、その能力と適性が開花する時期も人によって異なる。戦時下において、国家はなりふり構わず国民の能力を搾り取ろうとする。太平洋戦争中、理科系の資質がある中学生を大学に入学させ、大学の専門課程を半年程度で終える制度があった。本書の著者・新多昭次氏もその1人で、1944年11月に京都帝国大学工学部・戦時科学研究養成機関に入学し、翌45年3月には卒業し、4月から陸軍の秘密研究所(登戸研究所)で勤務する。この研究所は、陸軍中野学校で使用する秘密機材(殺人用万年筆)の開発にも従事した。

 戦時中の記録も抜群に面白いが、もっとも印象に残ったのは、登戸研究所の同僚で、戦後、GHQ(連合軍総司令部)に勤務したA君が伝えてきた<GHQが日本の教育制度を根本から変えることで、日本人のレベルダウンを計画している>(168頁)という情報が興味深い。

 具体的には以下の内容だ。

帰京後ほどなくして、再びA君から知らせがあった。

GHQの意向を受けて、日本の教育制度を根本から変えることが本決まりになったのだそうだ。「六・三・三・四制」といって、アメリカ本国に合わせて小学校を六年、中学と高校をそれぞれ三年、大学を四年とし、「大学」という名称を従来の高等学校や専門学校に与える。とどのつまりは教育内容のレベルを総合的に下げよう、ということらしい。

そして、従来教育界で高い地位についていた実力者や権威者は公職を追放する。こうすれば、・・・・・・(以下略)

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
陸軍中野学校』 中野校友会 1978年 (ナンバーを付して関係者に配布)
消された秘密戦研究所』 木下健蔵信濃毎日新聞出版部 1994年
Richard J. Aldrich, Intelligence and the War against Japan: Britain, America and the Politics of Secret Service ,Cambridge University Press;Cambridge,2008(抄訳:リチャード・オルドリッチ[会田弘継訳]『日・米・英「諜報機関」の太平洋戦争』光文社 2003年)

読書ノート No.27

アベノミクスが浮き彫りにする『近代経済学の限界』」 榊原英資/水野和夫 『新潮45』2013年4月号

 アベノミクスに対して、榊原英資氏、水野和夫氏が、率直なコメントを加えている。ポイントは、アベノミクスのモデルが閉鎖的な国民経済によって構築されていることと、新古典派(新自由主義と親和的)の「小さな政府」とケインズ的な「大きな政府」を同時に指向するという、奇妙な混交(ミックス)が起きているという点だ。

榊原 先ずアベノミクスへの僕の評価で先鞭をつけましょう。

必ずしも全面的に否定はしていません。ここ数年マイナス成長が続いていたし、財政、金融の面から短期的に景気刺激をすること自体は別に悪いとは思いません。老朽化したインフラの整備などは行う必要がある。

ただし、デフレ脱却は極めて難しいでしょうね。・・・・・・(以下略)

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
デフレーション――”日本の慢性病”を解明する』 吉川洋 日本経済新聞社 2013年
世界経済の大潮流 経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換』 水野和夫 太田出版 2012年
インフレーションとは何か』 川合一郎岩波新書 1968年
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.011 目次】
―第1部― インテリジェンス・レポート
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート(No.25)伊藤誠 『「資本論」を読む』
 ■読書ノート(No.26)新多昭二『陸軍登戸研究所の青春』
 ■読書ノート(No.27)榊原英資/水野和夫「アベノミクスが浮き彫りにする『近代経済学の限界』」
 ■読書ノート(No.28)平良好利『戦後沖縄と米軍基地 「受容」と「拒絶」のはざまで 1945~1972年』
 ■読書ノート(No.29)東郷和彦『米国で高まる日本不信』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 佐藤優さんの今後の予定(5月上旬まで)