『新しいウイルス入門』
単なる病原体でなく生物進化の立役者?
武村政春=著

メニューページはこちら

生物進化にウイルスが深く関わっていた?

 ウイルスのイメージは変わりつつある。ウイルスが生物のゲノムの中に入り込み、生物の進化にとって重要な役割を果たしてきたことが明らかになってきたからだ。

 さらに巨大ウイルスの発見で、ウイルス研究は新段階を迎えた。ウイルスとはどんな形をし、どんな種類があり、どんな働きをしているのか。インフルエンザやノロウイルスといった身近な存在に触れながら、新しいウイルス像を解説する。

はじめに

 毎年冬になると、多くの人が恐れおののき、ヤキモキし、ひたすら通り過ぎるのを待つものがある。

 目にも見えず、耳にも聞こえず、匂いも味もしないもの。いや、そういうものだからこそ、その“存在”に恐怖し、神経を尖らせるもの。

 インフルエンザウイルスである。言わずと知れた、多くの国民が毎年のように苦しめられる病原体だ。

 病原体というと、バクテリア(細菌)などの微生物を思い浮かべる方が多いだろう。バクテリアはれっきとした生物であるが、一個の細胞でできた「単細胞生物」だから、私たちよりもはるかに小さく、普通は目に見えない、それゆえにこそ病原体として恐怖の対象になっているとも言えよう。

 ところがインフルエンザウイルスは、そのバクテリアよりももっと小さい。目に見えないどころではなく、普通の顕微鏡を使っても見えない。恐怖の対象としての病原体の地位は、バクテリアよりもはるかに強力だと見てよいだろう。

 しかも、バクテリアは生物なのに、ウイルスは生物とはみなされていない。生物ではないのなら、いったい何なのか?

 本書は、タイトルにもあるように、ウイルスに関する入門書である。

 まずはオーソドックスな内容として、ウイルスとはどんな形をし、どんな種類があり、どんな“悪さ”をしているのか、そうした視点で深く掘り下げて解説することを目的としている。一方で、最近のウイルスの研究の最前線の様子をふくめて、ウイルスの「生物学的な側面」を強調し、分かりやすく読者諸賢に伝えることもまた、本書の目的である。

 現代の世相で言えば、ウイルスというと「コンピューターウイルス」のほうが人口に膾炙しているとも言えるが、ふと気がつけば、もう一方の“本家”ウイルスに振り回される私たちがいる。

 ウイルスは単なる悪者、厄介者ではない。確かに人間にとっては厄介者だが、じつは生物の進化になくてはならないものだったのかもしれない。

 いったいウイルスとは何者なのだろう。

 本書をお読みいただくことにより、この疑問にある程度こたえることができるかもしれないが、おそらくはまだまだ部分的にしか明らかにされないだろう。なぜなら、ウイルスに関する研究自体が、まだまだ終わっているわけではないからである。始まったばかりと言ってもいいくらいだ。

 それよりも筆者は、読者諸賢が本書を読み終えたとき、そのイメージの中で、ウイルスと聞けばすぐさま「インフルエンザ」、「病原体」が代表的表象(シンボル)として浮かび上がってきたこれまでの様相が一変し、「ウイルスもこの世界に必要なものだったのだなあ」という思いが広がってくれることを、その研究のほんの一端に関わった者として、そしてこの本の著者として、ひとえに願っている次第である。

著者 武村政春(たけむら・まさはる)
1969年生まれ。東京理科大学大学院科学教育研究科准教授。博士(医学)。DNA複製の分子生物学や、分子生物学をベースとした生物教育学を専門として教育研究を行うかたわら、生物学に関する一般書の執筆も多数手がける。さらに、世の中のすべてを「複製」の観点から見る「複製論」を展開中。妖怪(特にろくろ首)好きの分子生物学者としても知られる。
http://www.takemura-lab.com

 
『新しいウイルス入門』
単なる病原体でなく生物進化の立役者?

著者:武村政春

発行年月日:2013/01/20
ページ数:228
シリーズ通巻番号:B1801

定価(税込):924円 ⇒本を購入する(Amazon)


 
(前書きおよび著者情報は2013年1月20日現在のものです)