『海はどうしてできたのか』
壮大なスケールの地球進化史
藤岡換太郎=著

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「水の惑星」46億年の事件史!

 宇宙で唯一知られる「液体の水」をもつ海は、さながら「地獄絵図」の原始地球でいくつもの「幸運」の末に産声をあげました。しかし、それはわたしたちにとっては、猛毒物質に満ちたおそるべき海だったのです。

 原始海洋が想像を絶する数々の大事件を経て「母なる海」へと変容するまでの過程から46億年の地球進化史を読み解き、将来、海が消えるシナリオにまで迫ります。

はじめに

 海辺に佇んで夕日が沈むのを見ていると、赤々と燃えるような色に染まった海と陸と空が三位一体となって、荘厳な風景を描きだします。そのようなとき、私の頭のなかでは決まって、ドボルザークの「新世界より」が奏でられます。それは私にとっては、遥かな過去に思いを向かわせ、また、無限の未来への想像をかきたてられる調べです。

 やがて陽がすっかり落ち、あたりが薄暗くなると、月が昇り、星が輝きだします。海面には月の影が細長く揺れています。過去と未来を想起させる「新世界より」に、浜辺に打ち寄せる波の音が絶妙なハーモニーとなって重なります。すると、この潮騒は何十億年も前からこうして繰り返されてきて、これからも鳴りつづけるのだということにあらためて気づき、なぜか心の安らぎを覚えるのです。私という存在、人間という存在のすべてが、大いなる海に抱かれていることを確認できるからなのでしょうか。

 京都に生まれ育った私は、子供の頃は夏休みによく若狭湾に出かけて、飛び込みをしたり、海に潜って魚や貝を獲ったりして遊びました。当時の私は潮騒の音を聞きながら、この海の向こうはどこにつながっているのだろう、遠くのほうの海はどれほど深いのだろう、海の水はなぜ塩からいのだろう、そして、海はいったいいつ、どのようにしてできたのだろう、などということを、いつも考えていたものでした。

 そうした疑問にみちびかれるように、成長してからは海を専門とする地球科学を研究するようになりました。観測船に乗って、1000日以上も海の上で過ごし、水深6500mまで潜れる潜水調査船「しんかい6500」などで計59回も深海を潜航しました。いつのまにか海は私にとって仕事場となり、さらにいえば人生そのものになっていたのです。

 子供の頃に抱いた疑問は、いまでは大分わかってきました。たとえば、海は遠くのほうほど浅くなっていることを知ったのは驚きでした。そして、海が現在のような姿になるまでには、大気や陸、そして生命とのほとんど奇跡ともいえる絶妙の相互作用があったことを知り、深い感動を覚えました。私は2012年にブルーバックスから上梓した『山はどうしてできるのか』という本で、山を本当に理解するには海を知らなければならないことを述べました。海を理解するにも、大気や陸や生命、ひいては地球そのものの成り立ちや、それらがどのように進化してきたのかを知る必要があるのです。今回、この本を書いてみて、あらためてそのことを痛感しました。

 本書はこうした私の半生で得た海の知識から、みなさんにもぜひ知っていていただきたいことを、悠久の時間のなかで海が現在のような姿になるまでのプロセスを主軸にして盛り込んだものです。地球スケールでの、壮大な「海の事件史」を楽しむつもりで、気軽に読み進めていただければ幸いです。

 ただし、海には気楽に考えるわけにはいかない問題もあります。それは、海がこれからも永遠にありつづけるのかどうか、という懸念です。いまの私には問題提起することしかできないのですが、将来、わたしたちの子孫が直面するテーマとして、本書の終盤で紹介しています。

 地球が「水の惑星」とよばれるのは、もちろん青い海があるからです。そして海があるからこそ、地球は現在わたしたちが知るかぎり宇宙で唯一の、生命を育む惑星となったのです。海を仕事に選んだ者として、本書によってみなさんがよりいっそう、海を愛する気持ちを強くもっていただければこれに過ぎる喜びはありません。

 ところで、この「ブルーバックス」というシリーズの名前は、1961年に人類初の宇宙飛行に成功したロシアの宇宙飛行士ガガーリンが残したと伝えられる「地球は青かった」という言葉からとって「青」、つまり「ブルー」を冠したものなのだそうです。それはいうまでもなく、海の色です。私がこのシリーズから海の本を出すことの、不思議な縁を感じずにはいられません。

著者 藤岡換太郎(ふじおか・かんたろう)
1946年京都市生まれ。東京大学理学系大学院修士課程修了。理学博士。専門は地球科学。東京大学海洋研究所助手、海洋科学技術センター深海研究部研究主幹、グローバルオーシャンディベロプメント観測研究部長、海洋研究開発機構特任上席研究員を歴任。2012年に退職、現在は神奈川大学、桜美林大学、放送大学などで非常勤講師。「しんかい6500」に51回乗船し、太平洋、大西洋、インド洋の三大洋初潜航を達成。海底地形委員会における長年の功績から2012年に海上保安庁長官表彰を受けた。主な著書に『深海底の科学』(NHKブックス)『深海のパイロット』(光文社新書・共著)、『海の科学がわかる本』、成山堂書店・編著)、『山はどうしてできるのか』(講談社ブルーバックス)がある。
 
『海はどうしてできたのか』
壮大なスケールの地球進化史

著者:藤岡換太郎

発行年月日:2013/02/20
ページ数:205
シリーズ通巻番号:B1804

定価(税込):861円 ⇒本を購入する(Amazon)


 
(前書きおよび著者情報は2013年2月20日現在のものです)