『新・天文学事典』
谷口義明=監修

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読んで見て学べる天文学の入門書

 宇宙論からはじまり、いま話題のダークエネルギー、ダークマターから、我々に身近な銀河、星、太陽、さらに最新のブラックホールや宇宙生物学の研究、宇宙開発、天文教育まで、第一線で活躍する研究者が詳しく解説。天文学の全体が概観できる、読んで見て楽しめるカラー事典。

序文

 天文学は不思議な学問である。なぜなら、天文学ほど我々に身近な自然科学の分野はないからである。天文学は天体を観ることから始まる。すると、我々は好むと好まざるとにかかわらず、常に天体を観ていることに気がつく。

 我々は地球に住んでいるが、そもそも地球は天体(惑星)である。晴れていれば、日中は太陽という天体(星)を拝み、夜には月や満天の星空を眺める。月も、星も天体である。また、星々が川の流れのように見える天の川は、我々の太陽系が存在する銀河の姿に他ならない。古来、天文学が我々にとって身近な学問として心の中にあり続けている所以である。

 このような事情から、天文学の研究者のみならず、一般の方々の天文学や宇宙に関する関心は非常に高い。しかし、ひとたび天体現象や宇宙について理解しようとすると、たくさんの科学的知識が必要となり大変である。そんなとき、基礎から最新の情報まで網羅する天文学の手頃な事典があると便利なはずである。本書はまさにこのニーズに応えるものとなっている。

 じつは、1983年に、ブルーバックスから『現代天文学小事典』が刊行されている。当時の天文学を縦横無尽に語り尽くした素晴らしい事典であった。しかし、30年の歳月は我々の宇宙観を大きく変えた。『現代天文学小事典』のスピリットを継承し、時期を得て改訂版を出版することは、我々遅れてきた者の責務である。

 では、1983年以降、天文学はどのような進展を遂げたのだろうか? 進展の原動力はいつの時代でも同じである。技術革新。これに尽きる。1609年、ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡で宇宙の観測をして以来、可視光による観測は基本である。写真技術の発展とともに、しばらくの間、写真乾板が検出器として使われていた。しかし、1980年代中盤から半導体を利用したCCDカメラが天体観測に利用されるようになった。量子効率は100パーセントに近いので、人類は究極の検出器を手にした。このおかげで、どうしても手の届かなかった100億光年彼方の銀河を観測できるようになった。

 技術革新は続く。積年の夢だったハッブル宇宙望遠鏡(HST)が打ち上げられたのが1990年のことであった。主鏡の誤研磨というトラブルを3年後に乗り越えてからは(補正光学系を装着した)、まさに人類の宇宙観を根底から覆すような画像を提供し続けている。あまりにも美しい星雲や銀河の画像に、息をのまれた方も多いだろう。しかし、HSTの主目的は、望遠鏡の名前に宇宙膨張を発見したハッブルの名前が冠されているとおり、宇宙の膨張率であるハッブル定数を精密に測定することだった。宇宙マイクロ波背景放射の観測などと併せて、宇宙の年齢を137億年と決定したことは、ここ30年の最も大きな成果の1つである。

 また、HSTの白眉は、深宇宙探査を目的とした、ハッブル・ディープ・フィールドとハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドである。これらのプロジェクトのおかげで、人類は132億光年彼方の銀河を発見するに至り、銀河の誕生過程の解明に肉薄しつつある。もう1つの白眉は、広域サーベイで宇宙のダークマターの3次元分布を初めて明らかにした宇宙進化サーベイ(COSMOSプロジェクト)である。冷たいダークマターによる銀河形成論を観測的に初めて立証した。

 また、待ち望まれていた宇宙マイクロ波背景放射の精密観測がCOBEとWMAPの2つの衛星で行われた。温度(密度)ゆらぎが発見され、銀河の種が見えてきた。さらに、これらの観測に基づき宇宙の質量密度を調べてみると、原子の占める割合は高々数パーセントで、大半はダークエネルギーとダークマターで占められていることが判明した。我々の住む宇宙は正体不明の暗黒に操られて進化しているのである。

 地上の天文台はすべて大型化し、口径8.2mのすばる望遠鏡などが稼働し始めた。遥か130億光年彼方の非常に若い銀河が多数発見され、ようやく銀河の形成と進化の様子がわかるようになった。また、電波では南米アタカマ高地にALMAが建設され、2011年から稼働し始めた。世界初の国際共同運用天文台である。銀河系内の星生成領域の精密観測や遠方銀河の星間物質の研究に大きな進展が期待されている。宇宙天文台はハッブル宇宙望遠鏡の他に、紫外線、赤外線、X線、およびガンマ線天文台が次々と打ち上げられ、本格的な多波長観測の時代に突入した。特に、ガンマ線天文学の発展は著しく、宇宙最大の爆発であるガンマ線バーストの研究が進んだことも特筆に値する。

 身近なところでは我々の住む太陽系の理解も格段に進んだ。2006年の国際天文学連合の総会で、冥王星が惑星ではなく準惑星に変更になったことは大きなニュースとして取り上げられた。これは望遠鏡が大型化して、太陽系外縁部の観測が進展したことによる。海王星より遠いところには、冥王星クラスの天体がたくさんあることがわかってきたため、冥王星の位置づけが変更されたのである。また、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワの物質を持ち帰った大偉業もあった。

 一方、コンピュータ・シミュレーションの技術も大革新を遂げた。日本の研究グループが開発した重力多体系専用チップであるGRAPEの開発で、太陽系(恒星+惑星系)から、銀河、宇宙大規模構造の形成と進化まで、飛躍的に速いスピードで計算できるようになったからである。地球や月のでき方も原理計算で探ることができるようになった意義は大きい。また、観測的には、第2の地球探しも本格化し、地球外生命に関する基礎研究も盛んに行われるようになってきた。

 何気なく見上げる夜空はなにも変わらないように見える。しかし、人類の宇宙の探求はどんどん進んでいる。読者の皆様にとって、本書が宇宙を理解する一助になれば幸いである。

目次
第1章 宇宙論
第2章 ダークエネルギー
第3章 ダークマター
第4章 宇宙の大規模構造
第5章 銀河
第6章 銀河系
第7章 星
第8章 太陽
第9章 太陽系
第10章 太陽系外惑星
第11章 ブラックホール
第12章 巨大ブラックホールと活動銀河中心核
第13章 星間物質
第14章 銀河間物質
第15章 宇宙生物学
第16章 観測技術
第17章 飛翔体による宇宙探査と宇宙開発
第18章 天文学の教育と普及
 

監修 谷口義明(たにぐち・よしあき)
愛媛大学宇宙進化研究センター長・教授。
『新・天文学事典』

監修:谷口義明

発行年月日:2013/03/20
ページ数:768
シリーズ通巻番号:B1806

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(前書きおよび著者情報は2013年3月20日現在のものです)