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佐々木俊尚 × 岩佐琢磨(CEREVO代表取締役) 【前編】「3Dプリンタブームが火をつけた製造業のイノベーション!ニッチな需要はグローバルにある」
[左]佐々木俊尚さん(ジャーナリスト)、[右]岩佐琢磨さん(株式会社CEREVO代表取締役)

※この対談は2012年11月に収録したものです

10ヵ国で各国5万人、世界で50万人をターゲットに

佐々木: 『フリー』を書いたクリス・アンダーソンの近著『メイカーズ 21世紀の産業革命が始まる』が話題です。3Dプリンタの発展などで、製造業のパーソナル化が始まっていることを告げる内容で、非常におもしろい。

 しかし、どうも実感がわかなかったところもありました。模型のヘリコプターをつくって販売する例があげられているのですが、それは製造業に革命が起こるほどのことなのか。生活に必要なものすべてを、3Dプリンタでつくる時代は本当にくるのか---。

 そこで今日は、製造業の新しいあり方を実践している株式会社Cerevoの代表・岩佐琢磨さんをお招きして、そのあたりのことを聞いていきたいと思います。さっそくですが、Cerevoでは何をつくっているのでしょうか?

岩佐: 今の主力商品は、LiveShellという小型のインターネットライブ配信機器です。手持ちのビデオにケーブルを接続するだけで、インターネット環境があれば、UstreamやYouTubeなどのライブ配信がすぐにできます。これは2万6,800円で販売しています。

佐々木: シンプルですね。そういう商品って、今までなかったんでしょうか?

岩佐: 意外となかったんですよ。スマートフォンからでも一応、インターネットライブ中継はできますが、マイクの性能はよくないし、手振れも補正できない。でも、その上位機種となると、かなり専門的な業務用の機材しかなくて、中間の商品がなかったんです。

佐々木: そんなにライブ中継をする人って、多いんでしょうか?

岩佐: 最初は個人向けを想定していたのですが、実際販売すると、スモールビジネスに使われる方が多いですね。例えば、どこか地方の町の議会を中継したいという要望や、農家が野菜を育てて収穫する過程を中継するなどのニーズがあるんです。海水浴場の波の様子を中継したいというのもありました。

佐々木: ウェブカメラみたいな使われ方をしてるんですね。

岩佐: それで、もう少しハイエンドなものが欲しいという要望をいただいて、LiveShell PROという商品を出しました。これは、価格が5万4,999円で、画質は4倍です。

佐々木: なるほど。LiveShellは、実際売れているんですか?

岩佐: けっこう売れています。でも、そんな爆発的に売れなくてもいいと思ってるんです。

佐々木: えっ、そうなんですか?

岩佐: 多くて何万個か売れればいいかなと。LiveShellはターゲットを1万台以下に設定しているんですよ。ニッチなマーケットを見つけたら、そこを狙って、機能も絞って、迅速につくるという戦略です。

佐々木: それは日本の大手家電メーカーの真逆の戦略ですね。マスを狙うと、つい機能過多になっていきますから。

岩佐: 国内で1千万台売ろうと思ったら、1億人以上のイメージユーザーがいないといけない。それで、万人に必要とされるために、あれもこれもと機能を付け足すことになる。でも、世界で50万人を狙おうと思ったら、10ヵ国で各国5万人。

 ひとつの国で5万人ターゲットって、人口比率にもよりますが、相当マニアックですよね。実は、LiveShellは売り先の半分近くが海外なんです。こういうニッチな需要はグローバルにあるんですよ。

佐々木: おもしろいですね。今まで、マーケティングではキャズム理論が基本になっていて、キャズムを超えてマスに届けることがひとつのゴールだった。でも、キャズムを超えなくても、確実なビジネスになるということなんですね。むしろ超えようとしない方が、いいくらいかもしれない。

(注: 消費者はイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの5つに分類でき、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた層に普及した段階で、新技術や流行が急激に広がっていく。アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間にある深くて大きな溝を「キャズム」と呼ぶ)

岩佐: その通りです。そもそも、イノベーターやアーリーアダプターという分類自体が、難しくなってきているのではないでしょうか。

佐々木: どういうことでしょうか?

岩佐: ITのガジェットなど、ある特定のジャンルのなかでの、イノベーターやアーリーアダプターは、いるかもしれません。でも全国民のイノベーターやアーリーアダプターなんているのでしょうか。

佐々木: 確かに。そもそも全国民が使う物、欲しがる物なんてないですよね。ありとあらゆる分野で、マーケットは細分化されているわけですから。ある分野でアーリーアダプターの人も、他の分野ではそうじゃないかもしれない。

岩佐: 家電メーカー、製造側から見ても、ターゲットがどんどん狭くなっていっているのを感じます。

佐々木: じゃあ、今後メーカーは、小規模なターゲットに対して、多品種の商品を展開していくほうが生き残れるということでしょうか?

岩佐: そうだと思います。ポメラを開発した文具メーカーのキングジムは、その方向にシフトされていると聞きました。

佐々木: なるほど。大手メーカーは少人数チームの集合体になっていくのかもしれませんね。

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