奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第24回】 息子が学習塾に突きつけた「3つの条件」に仰天した

2013年04月06日(土) 奥村 隆
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 すると、背後でドアの開く音がした。振り向くと、息子が入ってくるところだった。「あれ、息子は確か『春休み中は毎朝5時半に起きる』と言っていたはずだけど、早いな」と思いつつ、「おはよう」と声をかけた。

 ところが、息子は何も答えず、視線もこちらに向けずにキッチンへ向かった。といっても、別に不機嫌そうな様子もなく、むしろ嬉しそうに笑顔を浮かべている。どうやら、僕の存在も意識していないような、心ここにあらずといった雰囲気で、何か頭の中で想像を巡らせているのかもしれなかった。

 息子は僕と同じようにグラスに水を注いでごくりと飲むと、無言のまま再び出て行ってしまった。僕はもう一度「今日は早いね」と声をかけたが、やはり笑顔でそっぽを向いたままで、返答はなし。「何があったんだ?」と首をひねるしかなかった。

 やがて、テレビの時刻表示が5時30分を示したその瞬間、またドアが開く音がして、息子が小走りでやって来た。相変わらず笑顔を見せ、なぜか今度は自分から「お父さん、おはよう」と挨拶してくる。

 「おはよう。さっきは一度起きてきたけど、また寝たのか?」と聞くと、息子は、「5時には目が覚めたよ。でも、起きるのは5時半と決まっているから、今起きてきたんだよ」と答えた。

 どうやら彼の中では、自分で決めた5時半きっかりに起きるまでは「寝ている」という設定になっており、だから、それまでは、目覚めていても「おはよう」も絶対に言わない、ということらしい。

 「5時から5時半までの30分は、何をしていたんだ? もう一度寝てたの?」

 「ううん。今日一日、何をやるのか、いろいろ細かく考えていたんだよ。僕、夏休みや春休みは、朝のその時間が楽しくてたまらないんだ」

 息子はさらにニコニコしながら答えた。本当に幸せそうな表情だ。その気持ちは、息子と同じASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ僕には痛いほどよくわかる。

 僕の場合は、多忙な時期でない限り、目覚めてから1時間ほど、布団の中でその日の予定を確認し、やることをあれこれシミュレーションしていく。それはもう、至福としか言いようのない時間である。

 困るのは、前の晩から、次の日にやることや起こることをあれこれ想定し始めて、眠れなくなるケースだ。本当は眠りたいのだが、いったん計画を考え始めると、自動的に頭の中で膨大なシミュレーションが始まってしまう。夜中のベッドの中で、その作業に平気で何時間も費やしてしまうのは辛くてたまらないのだが、自分では止められないのだから仕方がない。

次ページ  ただし翌日、その計画通りに物…
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